連載エッセー「ステキな家をつくろう」

#10|土と共にある暮らし 畑のそば 建材にも工夫

家の周りに生えるヨモギやドクダミなどのハーブを梁に干しています。れんがの床は土からできているため泥や水気が似合い、畑の汚れも気になりません

東京から北海道に戻って間もなく、友人が関わる札幌市内のシェアファームに参加しました。生産と消費がそばにあることで生まれる知恵、自然を恩恵と捉える感覚、自ら育み糧にする喜び…。これらシェアファームで経験した事には大きな影響を受けました。

借家時代、風除室を温室にして育苗したり、庭木に大根を干したりしました。マンション住まいでも、コンポストで土づくりしながらベランダファーミングする友人が周りにいます。

その後、自然豊かな札幌市の盤渓地区に家を移し、畑と隣り合わせの生活を始めるにあたって、家のしつらえも工夫しました。外壁は土入りのモルタル壁で、土汚れも気になりません。玄関の横には、水やりや、軽く野菜をすすぐのに便利な散水栓を設けました。

1階玄関周りの床は江別れんがを敷き、水や土が掛かっても気にせず土間のように使えます。井戸水の貯水槽として使われていた1階床下の空間は、ふさいでしまわず冬季に野菜を保管できる「室(むろ)」として使っています。むき出しの梁には季節のハーブや葉野菜を干しておけます。

「住」の分野では、住み手が「家」が何でどうできているかも分からない場合も多く、生産と消費が分断されている感じがします。

「今の当たり前」の感覚によって、大切な事を見失っているのではないかー。そう考えたことで、施工者とは分業された設計者である自分たちが、自ら工具をふるうきっかけにもなりました。

土と共にある暮らしは、私たちにさまざまなことを教えてくれます。

三木万裕子さん

1級建築士

みき・まゆこ/東京都内の建築設計事務所勤務を経て2013年に独立。「三木佐藤アーキ」を主宰し、建物のほか家具のデザインや製作も行う。札幌市内の古い農家の住宅を修復し、夫で建築家の佐藤圭さん、長男の千木(せんぼく)君と3人で暮らす。札幌市出身。

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