臍帯血移植 コロナで加速 骨髄提供や移植の中止に備え

移植施設に送る臍帯血(ピンセットで挟んだ小さなバッグ)を確認するスタッフ。後ろは臍帯血を凍結保存しているタンク=北海道さい帯血バンク

赤ちゃんのへその緒とお母さんの胎盤に含まれる血液、臍帯血(さいたいけつ)を白血病などの血液疾患の患者の治療に用いる臍帯血移植。2019年に日本で1379例が行われた。その数は世界で最も多い。この臍帯血が新型コロナウイルス感染症の拡大で、より必要とされ、移植件数も増えている。臍帯血を保存し必要な患者に届ける日本赤十字社北海道さい帯血バンク(札幌)は、提供や移植に一層の理解と協力を呼びかけている。

北海道バンク 出産時の提供呼びかけ

臍帯血移植の流れ

臍帯血は出産直後に約60~200ミリリットル採取され、血液を造る造血幹細胞が豊富。血液を正常に造ることができない患者に移植することで血液を造る力を回復させる。こうした造血幹細胞移植は、どこから採取するかにより臍帯血移植、骨髄移植、末梢(まっしょう)血幹細胞移植の三つがある。

造血幹細胞移植が必要な患者は、血縁者から白血球の型が合う骨髄や末梢血幹細胞の提供者を探し、見つからなければ非血縁者から探す。日本骨髄バンクのドナー登録者(検索対象約40万人)から合う人を探し、同意を得て骨髄や末梢血幹細胞を採取するか、北海道を含む全国六つの公的な臍帯血バンクが母子の協力を得て採取し保存している臍帯血(同約9千本)から合うものを探し、移植する。

こうした非血縁者間の造血幹細胞移植は19年、日本で2622例が行われた。かつては骨髄移植しかなかったが、1997年に始まった臍帯血移植が徐々に増加。2016年から骨髄と末梢血幹細胞の合計を上回り、19年は全移植の53%が臍帯血だった。

「新型コロナの影響で、臍帯血が今まで以上に必要とされています」と、北海道さい帯血バンクの秋野光明担当部長は話す。

日本骨髄バンクと関連する学会が今年4月以降、全国の移植医に、骨髄バンクを介した骨髄移植や末梢血幹細胞移植が提供者や医療者の感染により延期・中止となるのを避けるため、既に採取・保存してある臍帯血から患者に合うものを万一に備えて準備するように呼びかけているからだ。

これに呼応するように、4月以降は全国の骨髄移植(造血幹細胞移植を含む)の月間件数が例年を下回る一方、臍帯血移植が増加。8月までの5カ月間では、骨髄移植の398例に対し臍帯血移植は636例に上る。

だが、六つの公的な臍帯血バンクが保存する臍帯血は合計で9246本(9月1日時点)。国が定めた保存目標の2万本の半分にも届いていないのが現状だ。

その一因には、臍帯血の認知度が骨髄移植に比べ低いことが挙げられる。北海道さい帯血バンクが昨年、札幌市の母親学級で行ったアンケートによると、臍帯血が白血病などの治療に用いられることを知らない人が47%と半数近くいた。

だが、別の学級で臍帯血移植について説明すると、「出産時に臍帯血を提供してもよい」が79%、「少し考えてみる」が21%と全員が提供に前向きになり、「提供したくない」人はゼロだった。

秋野担当部長は「これを機に、通常なら廃棄されてしまう臍帯血の移植で救える命があることと、臍帯血バンクという仕組みがあることを知っていただきたい。お母さん方には出産時、臍帯血の提供にぜひ協力していただきたい」と呼びかけている。

道内は12施設で採取 母子に痛みや危険性なし

臍帯血を提供するにはどうしたらよいのだろうか。

お母さんが臍帯血の採取・提供の説明を受けて同意すると、無事に出産して赤ちゃんとへその緒を切り離した後、へその緒の血管に針を刺し、へその緒と胎盤に残る血液を採る。「母子ともに痛みや危険なことは全くありません」と、北海道さい帯血バンクの関本達也担当課長。

臍帯血の提供は無償で費用の負担もない。ただし、採取・提供できるのはバンクと提携した産科施設に限られる。道内では札幌市10カ所、石狩市1カ所、旭川市1カ所の計12カ所=表=。提供可能な施設や地域を広げたいが、採取後36時間以内に凍結しなければならない制約もあるという。

臍帯血を採取・提供できる道内の産科施設

採取された臍帯血は札幌市西区の北海道さい帯血バンクに運ばれ、血液量や細胞数、感染の有無や白血球の型などを調べる。基準を満たしたものを移植用として登録し、最長で10年間、液体窒素で凍結保存する。「保存できるのは運ばれて来た臍帯血の2割ほど」。2019年度は全部で920本受け入れ、うち168本(18%)を保存した。

現在、北海道さい帯血バンクが保存する臍帯血は988本。必要とする患者が現れたら、移植を行う医療機関に送られる。送り先は道内に限らず日本中に及んでいる。19年度は同バンクが保存する76本の臍帯血が移植に用いられた。

さらに詳しいことや問い合わせは、北海道さい帯血バンクのホームページ、または(電)011・613・8765へ。

取材・文/岩本進(北海道新聞編集委員)

(2020年10月14日北海道新聞朝刊掲載記事)

この記事に関連するタグ

2024
5/4
SAT

Area

北海道外

その他