連載【0カ月からの育児塾】

妊娠中はなりやすい歯周病 早産リスクも高く

写真はイメージ(mits / PIXTA)

妊娠すると、女性ホルモンの影響で、歯茎が赤くなったり腫れたりする歯肉炎になりやすくなります。症状が進んで歯周病になると、早産や低出生体重児のリスクが高まると言われています。日ごろから口の中を清潔に保ち、定期的に歯科を受診することが大切です。札幌市東区の栄町なごみ歯科の房川大地院長に、歯周病のリスクと予防について聞きました。

「​赤​ち​ゃ​ん​の​た​め​に​口​内​の​健​康​維​持​を​」​と​話​す​房​川​大​地​院​長​

「​赤​ち​ゃ​ん​の​た​め​に​口​内​の​健​康​維​持​を​」​と​話​す​房​川​大​地​院​長​

ふさがわ・だいち 1977年、長崎県生まれ。2005年に神奈川歯科大を卒業後、札幌市内の父の歯科クリニック勤務などを経て16年に開業。13年には北海道助産師会で妊婦の歯科疾患について講演。

女性ホルモンが変化すると歯茎が炎症を起こしやすくなります。歯茎が腫れると歯との間の溝も深くなり、歯垢(しこう)がたまります。歯垢に含まれる歯周病菌により歯茎が炎症を起こし、さらに溝が深まって「歯周ポケット」となります。これは歯ぎしりなど強い力がかかることで、より進行します。空気を嫌う歯周病菌がそこで繁殖して微弱な酸を作り出し、歯を支える骨まで溶かします。

歯周病菌の中には女性ホルモンを栄養源として繁殖するものがあります。NPO法人日本臨床歯周病学会によると、出産前の女性ホルモンの分泌量は月経時の10~30倍。妊婦が歯周病の場合、早産や低出生体重児のリスクが高まるという調査結果があり、喫煙や飲酒、高齢出産よりも高いとされています。

子宮を収縮させて出産を促す物質が歯周病菌による炎症からも生じ、歯茎から血管に入り早産につながることがあると考えられています。また、歯周病になると血糖値が上がるとも言われ、妊娠糖尿病の人などはより注意が必要です。

妊娠中の治療は難しく、房川院長は「応急処置になることが多い」と言います。使える薬が制限されることや、妊娠糖尿病の場合だと免疫が落ち傷の治りが遅いため外科処置を抑える必要も生じます。重症など治療が必要な場合は、妊娠中期に患者や産科医と相談しながら慎重に行います。

口の中を清潔に 歯科受診とセルフケア

日ごろから口内を清潔にしておけば軽症で済むことも。厚生労働省は「e-ヘルスネット」=こちら=に歯周病セルフチェックリストを掲載していますが、初期は自覚症状がないまま進行すると言われています。房川院長は「できれば妊娠前からの定期健診を勧めたい。少なくとも妊娠したら歯科でチェックをしましょう」と話します。妊産婦歯科健診を行う自治体もあり、清掃などが含まれるかは確認が必要です。

セルフケアも大切です。口内を清潔に保つポイントを房川院長に聞きました。一つは、ずっと食べ続けるのではなく間食や食事の時間を決めること。二つ目は食後すぐうがいし、歯磨きは15分後を目安に。酸性の飲食物を口にした後は歯のエナメル質が溶けて軟らかくなり、磨くと削れる恐れがあるため15~30分空けると良いでしょう。三つ目は糸式ようじも使うこと。四つ目は唾液の分泌を促す唾液腺マッサージです。

つわり中は歯ブラシを口に入れられない人もいます。その場合は「せめてうがいを」と房川院長。歯科医からうがい薬の紹介や処方を受けられることもあります。「産後は忙しくて受診できず歯周病が悪化する人も多いです。定期受診を心掛け、子どもにも口腔(こうくう)ケアを習慣づけましょう」

取材・文/山田芳祥子(北海道新聞記者)

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