一から分かる不妊治療 夫婦の5.5組に1組経験

治療法は? 効果見ながら3段階

不妊治療の第一歩は原因を調べる検査だ。子宮や卵巣の状態を調べる超音波検査や血液検査、精液検査などがある。不妊専門の医療機関や、男性は泌尿器科でも受けられる。不妊につながる病気があれば、手術や服薬による治療を受け、自然妊娠する人もいる。

病気の治療をしても妊娠しない、不妊原因がわからないといったケースの場合、「タイミング療法」から始めるのが一般的だ。検査で排卵日を予測し、性交のタイミングをはかることで自然妊娠を目指す。

こうした治療で効果が得られなかった場合は、保険適用外の次のステップに進む。まずは「人工授精」。採取した精子を、排卵日などに合わせて子宮の奥に注入する方法で、精子が卵管にたどり着くのを助け、受精しやすくする。

一般的な不妊治療のステップ

人工授精で妊娠が成立しない場合は、採取した卵子と精子を体外で受精させ、成長させた受精卵(胚)を子宮に戻す「体外受精」に進む。一般の体外受精は、卵子に精子をふりかけて自然に受精するのを待つ受精方法だが、精子の受精能力が弱いなどの場合は、体外受精でも、さらに高度な方法の「顕微授精」を行う。顕微鏡をのぞきながら、精子を一つ選んで、細い針で卵子に直接注入して受精させる。

精液の中に精子が存在しない無精子症の場合、治療法として手術が考えられるが、その場合も保険適用外となる。

治療費は? 負担軽減へ助成制度

人工授精から先の治療は、公的医療保険の対象外で「自由診療」となるため、治療費は各医療機関が自由に決めている。原則3割の自己負担が基本となる「保険診療」と比べて高額になることが多い。

内閣府の資料によると、人工授精は1回あたりの平均額が1万~3万円で、医療機関ごとの差は比較的少ない。より高度な治療技術を要する体外受精は1回あたりの平均額が20万~60万円、顕微授精は30万~70万円で、医療機関ごとの治療費にも幅がある。

助成制度と課題

患者支援に取り組むNPO法人「Fine(ファイン)」(東京)の2018年調査(約1500人対象)では、治療費の総額は「100万~200万円未満」という回答が27%で最も多く、「300万円以上」という回答も17%あった。

高額な費用負担から、治療を断念する夫婦も少なくない。先のファインの調査でも「経済的理由でステップアップ(次の段階の治療に進む)を躊躇(ちゅうちょ)・延期・断念した」経験がある人は54%と半数以上を占めた。

国は04年度から体外受精費用の助成制度を設けている。現在は夫婦合算の所得が年730万円未満が対象で、1回15万円(初回30万円)を上限に、妻が39歳以下なら6回、40~42歳なら3回まで助成される。男性不妊は1回15万円(初回は30万円)まで。道の調べではさらに道内140市町村が国の制度に加えて独自の助成制度を設けている。

国は22年度からの保険適用の拡大を目指すが、現行の助成制度の所得制限を撤廃するなどの制度拡充で、それまでの負担軽減を図る考えだ。

課題は? 仕事と両立困難9割

日本産科婦人科学会(日産婦)によると、18年に国内で行われた体外受精によって生まれた子どもは過去最多の約5万7千人、新生児の15人に1人の割合だ。国内で初めて体外受精児が誕生した1983年以降、累計で約65万人となった。道内では88年に旭川医大が初の体外受精による出産を成功、93年には斗南病院(札幌)が顕微授精による出産を成功させた。

体外受精で生まれた子どもの推移

国内で実施された体外受精の治療回数は年間約45万回を超え、10年前の2.6倍に増加。そのうちの4割以上は40歳以上が占める。不妊治療を行う医療機関は全国に約660カ所(11月現在、道内31カ所)あり、いずれも人口が日本の2倍以上ある米国を上回る。このため、日本は「世界一の不妊治療大国」と呼ばれる。

不妊治療の保険適用拡大を巡っては、数ある治療法のどこまでを保険適用とするか、年齢や回数の制限の有無、保険適用と適用外の治療法を併用する場合の対応など課題は多い。また、保険適用となっても治療費が低く抑えられた場合、割に合わないとして不妊治療を中止する施設が出てくる可能性もある。

一方、不妊治療を受ければ、必ず妊娠するわけではない。日産婦の18年調査では、体外受精の1回あたりの出産率は12%。年齢別では30歳前後は2割台だが、34歳で19%と2割を切り、40歳では1割を下回る。ファイン理事長で、自身も不妊治療経験者の松本亜樹子さんは「不妊治療を受けている人は体だけでなく、精神的、経済的、時間的な負担に苦しむ」と話す。

体外受精1回あたりの出産率と流産率

同法人の17年調査では、回答した不妊当事者約5千人の9割以上が「仕事との両立が困難」とし、約2割が「退職を選んだ」と答えた。松本さんは「経済的な問題だけでなく、子どもを望む女性が若いうちに産み育てやすいよう、仕事や育児、キャリアアップなどとの両立できる環境整備も求められる」と話している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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