赤ちゃんを病気から守るスクリーニング検査、対象に「脊髄性筋萎縮症」追加 医師「早期発見で救える命も」

新生児から採血したろ紙(手前)を基に、検体を追加検査の機器に入れる職員=北海道薬剤師会公衆衛生検査センター

生後すぐの赤ちゃんの血液から、生まれつきのまれな病気を早く見つける検査として、新生児マススクリーニングと、同時に受けられる任意の追加検査があります。どちらも大切な赤ちゃんを病気から守る検査です。道内で1月から追加検査の対象となる病気に、脊髄性筋萎縮症が加わりました。二つの検査を受ければ、計34種類の病気の早期発見が可能になりました。

新生児マススクリーニングは、代謝やホルモン分泌に異常がある先天性の病気の有無を一括して調べる検査。早く見つけて治療を始めることで発症や発育障害などを防ぐのが目的です。

全ての新生児を対象に全国の自治体が検査費用を公費負担(無料)で実施。道内では北海道と札幌市が26種類の病気を対象に行っています。ただし、採血に必要な費用などは自己負担になります。

検査は、産科で生後4~6日の赤ちゃんのかかとからごく少量の血液を採り、ろ紙に染みこませ検査機関へ送ります。札幌市内の産科の出生児は札幌市衛生研究所が、それ以外の新生児は北海道薬剤師会公衆衛生検査センター(道薬検)=札幌市豊平区=が検査します。

結果は、正常ならば1カ月健診時に渡されます。異常が疑われる場合は産科を通じ直ちに知らせ、専門の医療機関で精密検査などを受け、本当に病気があるかどうか調べます。2021年度、道内では出生児の「ほぼ全員」に当たる2万9485人が受けました。26人(0.09%)に病気が見つかり、適切な治療などを受けました。

任意の追加受検は7割

一方、追加検査は、道や札幌市のマススクリーニングで分かる26種類以外の病気を早く発見する任意の有料検査です。「拡大スクリーニング」とも呼ばれます。

道内では2020年11月から(札幌市内の出生児は2021年9月から)、原発性免疫不全症2種類とライソゾーム病5種類の計7種類の病気を対象に始まりました。希望者が産科で申し込み、マススクリーニング検査時に採血し、全て道薬検が検査します。検査費用は5500円。結果は、正常ならば1カ月健診時に渡されます。

追加検査の実施主体、北海道希少疾病早期診断ネットワークの山田雅文代表理事(58)=酪農学園大教授、北大大学院招へい客員教授、小児科医=は「どの病気も診断法や治療法があり、早く診断し治療することで命が救える。病気によっては根治が可能」と話します。

開始から2022年12月末までの2年2カ月間に、出生児の約7割に当たる3万4396人が追加検査を受けました。その結果3人(0.01%)に病気が見つかりました。

山田さんは「追加検査で異常の疑いがあれば、道内の各領域の小児科専門医も情報を共有して対応を検討する。連携して赤ちゃんが精密検査、確実な診断、適切な治療を受けられる体制を整えている」と語りました。

脊髄性筋萎縮症とは? 発症前は治療薬の効果大

1月から追加検査に加わった、脊髄性筋萎縮症はどんな病気なのでしょうか―。

高橋悟・旭川医科大小児科学講座教授(58)によると、脊髄にある手足などを動かす神経細胞(運動細胞)の機能が徐々に低下し進行する病気。原因は遺伝子の異常です。神経細胞の機能低下に伴い筋力が低下します。手足が動かなくなる、首の据わり・お座り・歩行の遅れや困難、飲み込みづらくなる、呼吸が苦しくなる、といった症状が現れます。

この病気には4つのタイプがあります。「最も重症のⅠ型は、生後6カ月ぐらいまでに発症する。治療しないとお座りができず、やがては命に関わる。Ⅰ型の頻度は出生2万人に1人くらい。道内では年間1~2人が生まれている計算になる」

脊髄性筋萎縮症は、この数年間で3種類の治療薬が登場しました。投与時期が早いほど治療効果が大きいといいます。高橋さんは「発症前の治療開始がベスト。一日でも早く治療を始めたい。病気が進行する前や神経細胞の機能が残っている段階で投与すれば、機能の改善が望める。だから早く発見する必要がある」と検査に加わった意義を強調しました。

1月以降生まれた赤ちゃんについて、追加検査を希望すれば脊髄性筋萎縮症を含めた計8種類の病気の有無を一括して調べています。検査費用は従来通り5500円。4月から6600円になります。

北海道希少疾病早期診断ネットワークの山田さんは「現状では、3割の赤ちゃんが追加検査を受けていない。対応していない産科もある。道民や医療者の理解を広げ、全ての赤ちゃんに追加検査を受けていただきたい」と呼びかけています。

【追加検査について詳しくはこちら】
https://www.douyakken.or.jp/HEDNet-RD/

取材・文/北海道新聞編集委員 岩本進

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