広がるワクチン誤情報 「流産・不妊増える」は誤り

写真はイメージ(kouta / PIXTA)

新型コロナウイルスのワクチン接種が進められ、妊婦が受けられる機会が増える中、インターネットを中心に、ワクチンを打つと不妊や流産につながるといった根拠のない情報の広がりが問題となっています。これを受け、日本産婦人科感染症学会は7月中旬、これらの情報を否定する文書をウェブサイトで公開しました。同学会は「最新の科学データを基に、接種の判断をしてほしい」と呼びかけています。

「デマ情報に流されないで」学会がQ&A公開

「ワクチンで不妊になるという科学的根拠は全くありません」―。日本産婦人科感染症学会は7月19日、ウェブサイトに「新型コロナウイルスワクチンQ&A」と題し、SNSなどで広がるワクチン接種が不妊や流産につながるとの情報を否定する文書を公開しました。

Q&A

同学会は「妊婦や妊娠を希望する人などから『この情報は本当か』といった疑問や問い合わせが多数寄せられました。科学データに基づいた、現状得られる最新の情報を発信する必要があると考えました」と打ち明けます。

ワクチンを巡っては、「接種すると不妊になる」「流産する」などの根拠ない情報がSNSを中心に広まり、6月には首相官邸が「流産は増えていない」と発信するほか、河野太郎行政改革担当相がテレビ番組などで「全てデマ」などと否定する事態に。妊娠中や妊娠を希望する人の中には、不確かな情報を信じ、接種に二の足を踏む人もいます。

最新の研究データ基に解説

Q&Aでは、寄せられた質問で多かった15項目に対し、最新の研究データなどから回答しています。

例えば、誤情報の中でも多く出回っている「不妊になる」について、Q&Aでは「動物実験の結果、接種したワクチンはほとんど卵巣には到達していない。人でも臨床試験中に妊娠した方、着床前に接種して問題なく妊娠継続した方もいる」として、否定しています。

流産についても、「(妊娠中に接種しても、母子に)何らかの重篤な合併症が発症したとする報告はない」と回答。根拠として、米国疾病対策センター(CDC)の研究結果で、接種を受けた妊婦3万5千人の妊婦について流産や死産になった割合や、生まれた赤ちゃんが早産や低体重だった割合は、接種していない妊婦と変わらなかったとするデータを示しています。

一般的に自然流産の頻度は15%程度で、原因の大半が赤ちゃんの染色体などの異常によるものとされます。仮に100万人の妊婦が接種すれば、その後にワクチンと関係なく15万人に流産は起こり得ることになります。同学会は「デマ情報に流されず、学会や公的機関の情報を参考にして」と話しています。

Q&Aでは、ほかにも授乳中の接種について「メッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンは母乳中に分泌されないが、抗体が母乳中に分泌されるため、赤ちゃんを感染から守る効果が期待できる」と説明しています。

同学会理事長の山田秀人さん(手稲渓仁会病院不育症センター長)は「妊娠中に接種するかを判断する際には、『感染した場合の重症化リスクが高まる』『使用できる治療薬に制限がある』といった『接種しないリスク』も合わせて考えてほしい」と話しています。

妊娠後期 重症化の傾向

日本産科婦人科学会などは6月、妊婦のワクチン接種に関して新たな提言を公表しました。「希望する妊婦は接種することができる」とする見解を出し、接種への積極的な検討を呼びかけています。

新たな提言では、海外で多くの妊婦がワクチン接種を受けており、妊娠初期も含め、妊婦と胎児の両方を感染から守るとされていることを紹介。前回の提言にあった「(赤ちゃんの器官形成期である)妊娠12週までは避ける」との項目を外しました。

国内では、妊婦が感染した場合、妊娠後期で重症化しやすい傾向があることが厚生労働省の研究グループ(山田班)の調査でわかってきました。6月22日までに登録された感染妊婦144人のデータを解析したところ、「妊娠週数25週以降」で重症化リスクが高まりました。ほかにもリスク要因として「30歳以上」「妊娠糖尿病」「アレルギー歴あり」などが示されました。

これを踏まえ、新たな提言では「ワクチン接種のメリットがデメリットを上回る」としました。妊婦の副反応の頻度は、一般の人と差はないとし、発熱など出た場合、早めに妊娠中も使える解熱剤(アセトアミノフェン)を飲むよう助言しています。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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