• 不妊治療、時間惜しい コロナ禍、道内一部で延期 「不要不急なのか」

    不妊治療について医師と話す女性。患者にとって新型コロナウイルスの影響による治療の空白は精神的に重い負担となる
    新型コロナウイルスの感染拡大の影響は不妊治療にも及んでいる。日本生殖医学会は4月、体外受精や人工授精などの治療の延期を患者に提案するよう勧める声明を発表。翌月中旬には再開の検討を促したものの、道内の一部の医療機関は感染への懸念から、今も治療の延期を続ける。年齢が上がるほど妊娠率は低くなるとの統計もあり、妊娠を望む当事者は「時間が惜しい」と焦りを募らせる。

    「積み上げた努力が崩れ、はしごを外された気持ち。また最初からと考えるだけで気持ちが沈む」。札幌在住の香織さん(38)=仮名=はため息をつく。

    体外受精のための採卵に向け、排卵誘発剤の注射やホルモン剤投与などの準備を進めてきた。だが4月に学会声明が出た直後、担当医は「高齢や初産でリスクが高い。新型ウイルスで万が一、影響が出ては大変だ」と治療の延期を求めた。

    不妊治療を始めて5年目。体外受精は2回行ったが出産には至らなかった。治療に200万円近く使い、結婚前の貯金は底を突いた。「子どもを産むために残された時間は少ない。カウントダウンが進む怖さを医者は分かってくれない」

    日本産科婦人科学会の2017年のデータでは、体外受精により30代以降で出産した割合は、31歳の22.2%をピークに、42歳以上では5%未満に下がる。

    日本生殖医学会は4月の声明で、不妊治療の延期を推奨する理由について「新型ウイルスが妊娠初期の胎児に及ぼす影響が明らかになっていない。治験中の治療薬が妊婦には使えず、受診や医療行為での感染も危惧した」などと説明した。

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    宙に浮く2カ月

    「自然妊娠を止められたという話は聞かない。不妊治療だけ不要不急と思われているのか」と札幌の夏奈さん(31)=仮名=は嘆く。3年前に不妊治療を始め、体外受精の準備中だったが、治療は2カ月止まったまま。今も再開されない。

    同級生が次々と出産する中で焦りもある。「医師に焦りをぶつけても『今は耐える時期』としか言ってくれない。耐えた先に子どもを抱けないなら、気休めでしかない」。結婚6年目の夫(38)と相談し、病院を変えることも考えている。

    感染リスク恐い

    一方、5月以降も治療延期を続ける医療関係者からは「患者や医療従事者の感染リスクが怖い」との声が上がる。札幌の男性医師は「妊娠を強く望む女性は、多少熱があっても治療に来るかもしれない」。院内を十分に消毒しても、治療を再開すれば多数の患者が来る。「感染者の妊娠成功率など分からない点は多い。治療成功のためにも、今は自粛するのが患者にとっても良い」と強調する。

    「治療を再開してくれない」「若いんだからしばらく我慢してと言われた」。札幌市不妊専門相談センターにはこうした訴えが5月末までに12件届いた。札幌市保健所の担当者は「行政が病院に再開を強制することはできず、不満を聞いてあげるしかない」と話す。

    複数の産婦人科で診察する遠藤俊明・札医大非常勤講師は「新型ウイルスが妊娠成功率に影響を及ぼすという報告はなく、必要以上に怖がる必要はない」とした上で「妊娠するには残された時間が限られている患者も多い。患者の立場を優先し、早く治療態勢を戻すべきだ」と訴える。(石垣総静)

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