連載エッセー「ステキな家をつくろう」

#12|未完成の家 夢膨らむワクワク感

建物の半分以上に外壁がなく、玄関扉が意味を成していません。近所の方や目の前の川に遊びに来た人から、気軽に声をかけられます(写真提供/三木万裕子さん)

実は私たち夫婦は大分県臼杵市にも家をもっています。夫の曽祖母が住んでいたという築60年を超える家です。臼杵は人口約3万8千人で、北海道の地方と同じように過疎が進み、空き家も増えています。家は25年間、無人のままで荒れ放題でしたが、5年ほど前から義父母に許可をもらい少しずつ改修しています。

夫の小中学校時代の同級生たちが週末に集まり、土壁をたたき壊したり、朽ちた畳をはいだりしてリノベーション(改修)の準備を手伝ってくれています。みんな気持ちよい汗を流し、晴れやかに帰っていきます。こまごまと作業は続けていますが、今もトイレと4畳半以外は未完成です。外壁と窓はなく、リビングは屋根があるだけの野ざらし状態です。

そんな状態ですが、いったん人の手が入ると、関わる皆がそれぞれ完成したときのことを思い描くようになりました。部屋で地域の子供に勉強を教える塾を主宰するとか、皆でゲームができる場所にするなど、各自が具体的な構想を考えています。夫は街に本屋がなくなってしまったので、古本屋をやりたいそうです。

また、臼杵は港町です。たくさん手に入る貝殻を陶芸家の友人に焼いてもらい、砕いた粉で漆喰を塗ろう。友人の山から木を切り出し、製材して使えないか。河川敷で焼き杉加工もしてみたい…。そんなアイデアや妄想も楽しんでいるのです。

効率は悪くても、そこにしかいない人やものを生かすことで、自然に人が集まる魅力をもつ「地に足のついた建築」が実現していくのだと思います。それは宝探しのように原始的でワクワクする夢のある作業に思えます。

三木万裕子さん

1級建築士

みき・まゆこ/東京都内の建築設計事務所勤務を経て2013年に独立。「三木佐藤アーキ」を主宰し、建物のほか家具のデザインや製作も行う。札幌市内の古い農家の住宅を修復し、夫で建築家の佐藤圭さん、長男の千木(せんぼく)君と3人で暮らす。札幌市出身。

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