【妊娠と働く(下)】職場も手探り 配慮どこまで、戸惑いも

「妊娠中も働く職員が出たのは、グループ会社含めて初めて。どうすれば働き続けられるのか一から勉強しました」。道内運送業大手の共通運送(札幌)総務部係長の日高智美さん(46)は、そう振り返る。同社は創業61年。グループ会社含めて7割を男性社員が占めるが、20年ほど前から事業拡大に伴い、徐々に女性社員が増えてきた。

制度、一から勉強

グループ会社の共通商事(同)では2年前、職員2人が妊娠した。報告を受けた日高さんと、当事者の職場係長だった藤元美幸さん(45)は妊娠・出産、育児に関するセミナーを探しては積極的に参加。賃金や待遇、保障制度などについて学んだほか、働く妊婦向けセミナーにも足を運んだ。「前例がないからこそ、自分たちも学ばなければと思った」という。

職場の雰囲気作りにも力を入れた。共通商事の職員約300人にアンケートを実施したところ、育児介護休業制度を「知らない」と答えた職員は8割に上った。結果を給与明細書とともに配布、制度に関するポスターを社内に掲示し、男性も含めて休暇取得が可能なことを知らせた。「妊娠・育児中も働き続けられる土壌、休める雰囲気作りが必要だと考えた」と日高さん。藤元さんも「仕事をカバーする現場スタッフには、自分も病気や親の介護などで休むことがあるかもしれない。お互いさまだと説明して回った」という。

面談をこまめに

妊娠中の職員には、こまめに面談して、申し出があれば、現場作業から事務作業に変えるなど配慮した。育休中は所属長が毎月家庭を訪問、時短制度も導入した。昨年4月に産後7カ月で復帰した藤元真由美さん(37)は「妊娠がわかった時は仕事を続けられないのではと不安だったが、環境を整えてくれたおかげで安心して働けた」と話す。妊娠中も働き続ける職員はその後も続き、現在、パート職員を含む計6人が産休・育休中または取得予定だ。

このほか、道外でも三井住友海上火災保険(東京)が妊娠中の職員が体調の悪い時に安心して休めるよう妊娠5カ月以上の職員のいる部署には人員補充する制度を設けたり、育休などで一時的に人が減る部署に一定期間の「要員」として異動希望が出せる仕組みを新設したりするなど、独自の対策を進める企業もある。

とはいえ、妊婦の体調には個人差が大きく、「どう配慮したら」と対応に困る企業関係者の声は少なくない。「妊娠中に働くことがこんなに大変だと思わなかった」と札幌市内の大型スーパーの店長を務める男性(38)は振り返る。2年前、妊娠中のパート職員の女性(26)が、おなかも目立たない妊娠初期で仕事を1週間休んだ。女性は商品の陳列やレジ打ちなどが主な仕事だったが、ある日突然、店内で倒れ、病院に運ばれた。幸い、赤ちゃんは無事だったが、医師から休養を勧められた。

後につわりが重かったと聞いたが、男性はそれまで過去に自身の妻(34)が臨月まで保育士として働いていたため「まだおなかも大きくないし、通常通りで大丈夫だろう」と思っていた。「こんなにも体調に個人差があるのかと驚いた。本人も『大丈夫』と言ってくれていたので、全く気づいてやれなかった」と話す。

雇用主は休みやすい環境に

道内の多くの企業に仕事との両立支援などについて助言している社会保険労務士の本間あづみさん(札幌)は「妊娠中のつらさは個人差がある。だからこそコミュニケーションが求められる。こまめな面談などを通し、本人の体調や配慮が必要なことなどを聞き取ることが大事」と指摘する。

妊娠中の職員への配慮は、雇用主の義務として、労基法や男女雇用機会均等法に定められているが、企業担当者や妊婦自身にも「あまり認知されていない」という実情がある。「雇用主は職員が休みを言い出しやすい雰囲気を作ることが重要。女性側も、どんな制度があるのかを正しく知り、どう働きたいのかをきちんと伝えることが大事」と話している。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

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