連載コラム「晴れときどき子育て日和」第2回

巣ごもり生活で気づいたこと 当たり前の日々こそ愛おしい

写真提供/谷岡碧さん

新型コロナウイルスのため、絵本読み聞かせユニット「enets(エネッツ)」は活動を休止しています。幼い子どもが集まるイベントで感染対策を徹底するのは難しく、再開のめども立ちません。パートナーの石黒由佳はZoom(ズーム)を使ったリトミック教室を開いたりしていますが、私はずっと立ち止まったままです。

自粛期間中は「修行」のような、「祈り」のような日々でした。世界中の悲しいニュースに胸を痛めながらも黙々と食事を作り、子どもたちを入浴させて寝かしつけ、外との関わりがゼロのまま一日は過ぎていきます。

それはかつて「絵本はママを育ててくれる」に書いたように、人里離れたタイのチェンマイで「孤育て」していたころと重なりました。当時は唯一の楽しみが近所の豚を見に行くことだったけれど、今は近くに両親がいて、公園もコンビニもあります。

社会との関わりにストレスを感じやすい息子も、実に穏やかに過ごしていました。時間を気にせずレゴで遊び、車のオンライン番組を見て、布団や椅子を引っ張り出し部屋をアスレチックジムにする。「一体誰が片付けるんじゃい!」と思いつつも「時間は十分あるじゃないか」と波立つ心を落ち着かせ、子どもを見守る日々でした。

一方で、持病のある父が心配でした。感染したら悪化する可能性が高く、最悪の場合は死に目に会えないかもしれないという緊張感が常にありました。

身内の死を強く意識しながら子どもたちと密に過ごす時間には、不思議なコントラストがありました。

娘がベランダで飛ばすシャボン玉が、太陽の光を受けてキラキラと輝く様子。砂場で大きな山を作り「トンネルがつながった!」と喜ぶ息子のどろんこの笑顔。当たり前の生活の中に「生きる歓び」の輪郭がありありと浮かび上がる、それだけのことで胸がいっぱいになる瞬間もありました。

こんな日々が私から何かを奪ったとしたら、それは「野心」のようなものかもしれません。家族と過ごす毎日への感謝が膨らむほど、個人として何かを表現したい、発信したいという想いは縮む一方で…。

この状態にそれらしい見出しをつけるとしたら「『コロナ自粛に伴う意欲低下』かしら?」なんて考えつつも、未曾有の事態に直面する今、ささやかな日常を愛おしく思う自分を肯定してあげたい気もするのです。

谷岡碧さん

たにおか・みどり/2012年にテレビ東京を退社後、タイへ移住してNGOで勤務。17年に帰国後は札幌へ住み、幼なじみと読み聞かせユニット「エネッツ」を結成して活動中。夫と小学1年生の長男、2歳の長女と暮らす。札幌市出身、36歳。

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