意図せず体が動くチック症・トゥレット症 理解して静かに見守って

写真はイメージ

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自分の意思に反して頻繁にまばたきをする、「アッアッ」と声が出るなどの症状が現れるチック症。中でも、チック症の一種で、より複雑な症状がある「トゥレット症」は、長期にわたり続き、生活に支障が出ることもあります。チック症への周囲の対応のあり方や受診の目安について専門家に聞きました。

意図せず奇声やまばたき 多くは短期間で軽減

十勝管内に住む中学2年の男子生徒(13)は、4歳のころから目をパチパチする、舌を突き出すといったチック症が出始めました。小2の時に症状が悪化。頰の内側をかむ、大きな声を出す、目に指を入れる、などの症状が増えていきました。「やめたいのにやめられない」と泣いて訴えることも。小4から学校に行けなくなりました。

男子生徒は東京の児童精神科でトゥレット症と強迫性障害の診断を受けました。薬での治療のほか、オンラインで心理療法を受け、少しずつ落ち着き、現在は不登校の子向けの居場所に通えています。母親(40)は「今悩んでいる人には、つらい時間がいつまでも続くわけではないと言ってあげたい」と話します。

日本小児神経学会の「小児チック症診療ガイドライン」によると、チックは突発的で、不規則な、体の一部の速い動きや発声を繰り返す状態です。顔をしかめる、まばたき、飛び上がるなどの「運動チック」と、発声、せき払い、汚言(人前で汚い言葉を言ってしまう)などの「音声チック」があります。子どもの5~10人に1人は経験し、幼児期後半から学童期に現れることが多いです。

このうち、トゥレット症は、複数の運動チックと一つまたはそれ以上の音声チックが重なった状態が1年以上続いていることを指します。発症率は子どもの千人に3~8人。一般的に重症度のピークは10~12歳とされ、青年期に治まるが、成人後に症状が残る場合もあります。

育児の問題ではない

金生由紀子さん

金生由紀子さん

東京大学医学部付属病院こころの発達診療部の児童精神科医、金生(かのう)由紀子さん(64)は「チック症は脳神経機能のアンバランスがあって起こり、遺伝的な素因が関与することもある。心の病や親の育て方の問題ではない」と説明します。具体的には、大脳基底核と大脳皮質をつなぐ脳内回路の機能の問題といいます。一方、ストレスや不安の影響で症状が重くなることもあります。

子どもにチック症が現れたら、周囲はまずどのように対応すれば良いでしょうか。

金生さんは「やめなさい、と言ってもやめられないので、本人が気に病まないように周囲は穏やかな気持ちで接して」と話します。くしゃみのような、むずむずして出てしまうものだと想像すると理解しやすいです。

一方で、腫れ物に触るような、ピリピリとした「内緒の雰囲気」にするのも良くないそうです。「そういう子もいるって本で読んだよ」「疲れたり興奮すると出る子もいるんだって」と自然体で話題にし、ありのままを受け入れることが大切だといいます。

その上で、「どうしたらチックがあっても生きやすくなるか」を親子で考えてみます。「どんな時に、チックが起きやすいかな?」と子どもに聞いて、心構えをしておきます。金生さんは「『こういう場面でチックが出やすい』と分かって、『やっぱりそうか』と受け止めることができるだけでも、尾を引きづらい。深呼吸などその子がリラックスする方法を探るのもいい」と勧めています。

まず家庭で様子見て

須見よし乃さん

須見よし乃さん

チック症は短期間で消えることが多いので、まずは家庭で様子を見ます。こころと発達クリニックえるむの木(札幌市東区)の院長で児童精神科医の須見よし乃さん(53)は「学校でつらい思いをしている、など生活に支障が出ているかどうかが受診の目安になる」と話します。かかりつけの小児科医に相談し、必要があれば児童精神科や小児神経科などを紹介してもらいます。疾患について医師の説明を受け、子どもの負担を軽減できないか医師と話し合った上で、薬物治療や心理療法も選択肢になるといいます。

悩む偏見「優しい無視を」

「北海道トゥレット障害支援の会」が作成した冊子を手にする逸見和紀さん

「北海道トゥレット障害支援の会」が作成した冊子を手にする逸見和紀さん

道内のチック症・トゥレット症の当事者や家族らでつくる「北海道トゥレット障害支援の会」の代表、逸見和紀さん(72)は「周りの目を気に病む当事者は多いので、地下鉄など公共の空間でチック症のある人と出会っても、『優しい無視』をしてほしい」と呼びかけています。

同会は2022年に小冊子「知ってほしい チックと『トゥレット症』」を作成しました。会員になると入手できます。問い合わせは同会のホームページ(https://tourette-hokkaido.org/)へ。

取材・文/有田麻子(北海道新聞記者)

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