赤ちゃん返りのメカニズムは? 1人で悩まず、支援団体や行政の育児相談頼って
下の子が生まれたら、上の子が駄々をこねたり甘えん坊になったり。新生児の世話でへとへとなのに、どうしたらいいの?! 乳幼児健診などでよくある相談の一つ「赤ちゃん返り」は、不安やストレスを大人に和らげてもらうための無意識の防衛手段で、環境変化に対する自然な反応です。親族や子育て支援団体などの手も借りて、新しい家族の船出を乗り切りましょう。
「卒乳したのにおっぱいをほしがる」「絶えず『抱っこ』『見て』とせがむ」「下の子にいじわるをする」―。札幌市の乳幼児健診や保健師による新生児訪問では、こうした相談が多く寄せられます。イヤイヤ期がさらに激しくなることも。
相談の大半は母親からです。出産後は体が元に戻らないうちに24時間の新生児育児が始まります。女性ホルモンの急激な変化もあり、心身が不安定になりやすい状態です。市保健所の清水川靖子母子保健係長は「母親が体も神経も休まらず心情的に限界を超えてしまうことがあります。家事育児で外に頼ることをためらう風潮があるけれど、1人で子育てはできません。支援サービスや市の相談窓口を頼って」と話します。市町村の多くは育児相談を受ける窓口を設けています。
赤ちゃん返りを受け止めきれず上の子に強くあたってしまい、後悔したり自信を失ったりする母親は少なくありません。追い詰められると上の子をかわいいと思えない、手を上げてしまうといったことだって起こり得ます。
不安和らげてほしいSOS できる範囲で受け止めて
札幌学院大学の手代木理子特任教授(発達臨床心理学)によると、赤ちゃん返りは心理学用語で「退行」といいます。子どもがストレスや不安を感じた時に、自分では解消できず無意識に起きる防衛反応です。前の発達段階に戻ることで、世話をしてもらいやすい状況をつくるのです。安心できる状況になるとエネルギーが補充され、不安が解消されます。年齢にかかわらず、災害や不登校など日常が大きく変化したり社会から切り離されたりした時にも起きます。
ここで大人が突き放したり叱ったりすると、赤ちゃん返りが長引きます。ただ、新生児の世話があり、親が全面的に受け入れるのは難しいのが現状です。手代木特任教授は「できる範囲で大丈夫。ほどほどに満たされれば子どもが妥協してくれることもあるので、あまり心配しないで。父親や祖父母、複数人でかかわることも重要」と話します。また、同年代の友達と遊ぶなど、年相応の楽しみに目を向けさせることも有効です。
一方で赤ちゃん返りが全く無い場合は注意が必要と言います。「SOSの発信力が弱い子だと我慢が当たり前になり、心身症や摂食障害につながることもあります。注意深くSOSを拾ってあげて」
「産後のお母さん笑顔に」合言葉 夫やNPOがサポート
夫婦で力を合わせ、周囲の手も借りて赤ちゃん返りに向き合っている家族がいます。札幌市中央区の黒木陽子さん(35)が5月に次女琶賀(わか)ちゃんを出産後、長女琶梛(はな)ちゃん(3)の赤ちゃん返りが強くなりました。授乳中に妹を押すようにひざに乗りたがり、黒木さんが「しないよ!」と語気を強めることもあったそうです。
出産前から不安と期待がない交ぜだった琶梛ちゃん。妊娠中で抱っこできない時も夫や近所の母と協力して甘えたい気持ちに応えてきました。産後は「まずお母さんが笑顔に」を合言葉に、夫が夜間授乳3回中2回を分担し、睡眠を確保しました。
週2回通う「森のようちえん」も楽しい時間をつくるのに役立っています。NPO法人「子育て応援かざぐるま」の2歳児向けの活動で、円山公園原生林で2~3時間、自然と触れ合って過ごします。基本は週1回ですが、産後支援もする同法人が、琶梛ちゃんを案じる黒木さんに週2回を提案しました。
それでも琶梛ちゃんの赤ちゃん返りに黒木さんが余裕を失い、悪循環に陥る時期もありました。「受け止めるために家族や周囲のサポートが必要と感じました。今も赤ちゃん返りの波はあるけれど、ずいぶん落ち着いて、妹をとてもかわいがっています」とほほ笑みます。
取材・文/山田芳祥子(北海道新聞記者)
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