国際バカロレア(IB)とは? 国内でも注目される教育プログラムを解説

「国際バカロレア(IB)」は、グローバル化に対応した素養や能力を育成する、国際的な教育プログラム。世界159以上の国・地域で実施されており、日本でも、文部科学省が推進する中、全国で207校、道内でも3校がIB認定を受けています(2023年3月末時点)。IBとはどのようなプログラムで、実際にどういった教育が行われているのでしょうか。「IB初等教育プログラム」を中心に、IB教育について解説します。

国際バカロレア(IB)とは?

国際バカロレア(International Baccalaureate、以下IB)は、スイス・ジュネーブの国際バカロレア機構が1968年から提供している教育プログラムです。国際的な視野を持ち、グローバル化社会の中で生きていく本質的な力を身につけた人材の育成を目指すとともに、国際的に通用する大学入学資格(国際バカロレア資格)を与えて大学進学へのルートを確保することを目的に設置されました。

IBはもともと親の駐在などに伴い、世界各国のインターナショナルスクールに通う子どもたちが母国の大学に進学しやすいよう開発されたプログラムで、特定の国の制度・内容に偏らない世界共通の大学入学資格を与えるためのものでした。

IBの導入を希望する学校は、組織体制やカリキュラムをはじめ一定の基準を満たし、国際バカロレア機構から認定を受ける必要があります。2023年3月の時点で、世界159以上の国・地域、約5600校がIBの認定を受けており、その数は年々増加傾向にあります。

IBの学習者像

IB教育では、10の人物像を理想に掲げて教育プログラムが組まれ、国際的な視野を持つ人間の育成を目指しています。

IBの学習者像

出所:文部科学省IB教育推進コンソーシアム「IBの学習者像」を基に作成

重視される資質は、探究心や思いやり、開かれた心といった豊かな人間性。知識を習得することはもちろんですが、自分の意見をしっかり述べることや、自分と異なる意見や文化にも耳を傾けること、世界の恵まれない人々のためのボランティア活動なども評価の対象に。平和な世界の実現を目指して、教科や国といった垣根を越えた、全人的な教育が実践されています。

年齢層に応じた4つのプログラム

IB教育のカリキュラムは、1968年に高校生向けのプログラムがスタートし、1994年に中等教育、1997年に初等教育へと広がってきました。未就学児から高校生くらいの年齢まで、それぞれの発達段階に合った内容を学ぶことが可能です。年齢層別の4つのプログラムのうち、日本の学校では現在、次の3つが導入されています。

国際バカロレアの教育プログラム

出所:「文部科学省IB教育推進コンソーシアム」を基に作成

日本の幼稚園から小学校のカリキュラムに相当するPYP(プライマリー・イヤーズ・プログラム)は、3〜12歳を対象とした5年間の初等教育プログラム。精神と身体の両方を発達させることを重視しており、「言語」「社会」「算数」「芸術」「理科」「体育(身体・人格・社会性の発達)」の6教科を学びます。PYPでは、幼児期における経験が将来のすべての学習の基礎となると考えており、どの言語でも習得可能です。

中学校のカリキュラムに相当するMYP(ミドル・イヤーズ・プログラム)は、11〜16歳を対象とした5年間の中等教育プログラム。これまでの学習と社会のつながりを学ぶために、「言語と文学」「個人と社会」などの8教科を学びます。PYPと同じく、MYPもどの言語でも習得可能です。

高校のカリキュラムに相当するDP(ディプロマプログラム)は、16〜19歳を対象とした、大学入学を目指す2年間のプログラム。履修後に試験に合格するなど一定の条件を満たすと、海外を含めた大学の入学資格(国際バカロレア資格)が得られます。合格率はおよそ80%です。

また、日本ではまだ導入校はありませんが、16〜19歳を対象としたCP(キャリア関連プログラム)もあります。卒業後に就職を目指す高校生向けのカリキュラムで、キャリア形成のためのスキル習得を中心とした、職業教育プログラムです。

中でも、IB教育の代名詞とされるDPは「世界共通のパスポート」とも呼ばれ、教科ごとに調査・研究に基づいた論文を書いたり、教室の外で奉仕活動をしたりするなど、ディスカッションと体験の時間を大切に、国際的な視野を養います。日本語対象科目を除いて英語、フランス語またはスペイン語で授業が実施されるので、日常会話以上の専門的な語学力も必要です。

日本におけるIB教育の現状は

日本でも、2022年度から高校教育で「総合的な探求の時間」が導入され、変化する社会の中で主体的に生き抜く力を養う学習が重視されています。そんな中、IB認定校を増やすことが政府によって推進され、IB教育を提供する学校や、IB資格取得者の大学側の受け入れが拡大しつつあります。

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画像出典:(Sqback / PIXTA)

日本のIB認定校は、申請中の候補校をあわせて207校(2023年3月末時点)。政府の「IB認定校・候補校を200校以上に引き上げる」とする目標が達成されました。経済界においても、日本経済団体連合会が「次世代を担う人材育成に向けて求められる教育改革」(2014年)等の提言で、IB認定校の拡大を求めてきた経緯があります。また政府がバカロレア機構と協議して、高校レベルの一部科目について、授業や最終試験の受験を日本語でできるようにするなど、日本の小中学校で学んだ児童・生徒でも資格を取得しやすくする取り組みを進めてきました。

IBを活用した大学入試制度は、全国では東京大学、東京外国語大学、慶應義塾大学など70以上の大学が、道内では北海道大学が取り入れています。

道内のIB認定校は、市立札幌開成中等教育学校(MYP、DP)、札幌日本大学高等学校(DP)、そして、幌北学園認定こども園あいの里(PYP)の3校です。

PYPとして道内初のIB認定校に
認定こども園あいの里

初等教育プログラム(PYP)として道内初のIB認定校となったのが、札幌市北区の認定こども園あいの里です。北海道の幼児施設(幼稚園・保育園・認定こども園)では初の認定で、注目されています。現在、どのような保育が行われているのでしょうか。

「国際バカロレア(IB)」の認定校に選ばれた認定こども園あいの里(認定こども園あいの里提供)

「国際バカロレア(IB)」の認定校に選ばれた認定こども園あいの里(認定こども園あいの里提供)

札幌市北区の認定こども園あいの里は、大学などの教育機関や、緑豊かな公園に囲まれた環境で、0歳〜5歳の園児324人、14クラスの保育を行っています。(2023年6月現在)

同園は、2017年にニュージーランドとオーストラリアにあるIB認定の園を視察した際、子どもたちが自ら考えたり意見を言ったりする主体的な保育に感銘を受け、18年にIBに沿ったカリキュラムを導入。5年間の準備期間を経て、2022年9月にPYPの認定校に選ばれました。細川夕州妃(ゆずき)園長は「子どもが伸び伸びと自主的に考える姿や、一人一人に向き合って関わる大人の熱意に触れ、これが理想的な幼児教育だと思いました」と振り返ります。

PYPの6つのテーマ

PYPの特徴は「双方向型、能動的・参加型、探求型」とされます。先生は子どもから質問を引き出すような教え方をし、子どもは、テーマごとに英語や算数、社会などの科目を横断的に学んでいきます。

これはIB機構が定める、PYPの6つのテーマです。知るべき価値のあるテーマに沿って「普遍の事柄」に触れ、子どもたちの感動や探究心がより深い学びにつながり、主体的な行動や生きた知識となることに重点を置いています。これは新しい教育要領でも重視されている要素で、卒園後も生かされる資質・能力と言えるでしょう。

実際にあいの里では、必須項目の①③を含めた4つのテーマを、学年ごとに先生たちが決めて取り組みます。

例えば年長クラスの「私たちはどのような時代と場所にいるのか」というテーマでは、子どもたちが自分の今の状況を知り、将来に目を向けることを目標に、自分のポートフォリオ(成長や学びを振り返る記録)を作成することに。家庭で、赤ちゃんの頃からの写真を用意してもらったり、友達から「いいところ」を書いてもらったりして、生まれてから6年間でできるようになったことや、自分のいいところ、小学校で頑張りたいことなどをまとめました。今までの自分を振り返ることで、自信が深まるきっかけになったそうです。

プログラムでは、自分の考えを伝え、友達の意見を聞き、それぞれ違った意見を持っていることを認めあうことを大切にしている。参観日には、保護者も話し合いに参加(認定こども園あいの里提供)

プログラムでは、自分の考えを伝え、友達の意見を聞き、それぞれ違った意見を持っていることを認めあうことを大切にしている。参観日には、保護者も話し合いに参加(認定こども園あいの里提供)

また、「私たちはどのように自分を表現するのか」に取り組んだ年少クラスでは、「話すこと、伝えること」ができるようにと目標を設定。最初は、モジモジして言葉を発せなかった子も、日々、一つ一つの言動を観察して褒めていくうちに、手をあげて発表することができるようになりました。自分の発言で誰かが嬉しくなったり、共感してくれたりと、「気持ちを表現することは周囲に影響を与えることができる」という経験になったといいます。

IB導入以前に比べて、保育する大人の姿勢も変わったと細川園長は話します。「先生たちは、前に立って全体を見るというよりも、一人一人と向き合います。答えは一つじゃないということを、大切にするようになりました。子どもたちとコミュニケーションを取りながら、目の前の子を受け止めて次の提案をするという連続性がある。IB教育には、子どもと大人が主体的に関わりながら一緒に成長できる素晴らしさがあり、ここで生き生きと育った子どもたちの将来が楽しみです」。

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IB教育と言えば、大学受験などに直結するDPが、どちらかと言えば注目されてきました。しかし、PYPでは小さな頃から「考える力」を鍛え、他者への理解が育つようカリキュラムが組まれています。海外の大学に進学を考えている子どもの選択肢のひとつであるとともに、IBプログラムで学ぶことで、国際的な視野を身につけるとができ、IBの学習者像に示されているような人間的な成長にもつながりそうです。


取材・文:猪飼佳奈子 グラフィック:TOMO AND JERRIE
参考:文部科学省IB教育推進コンソーシアム(https://ibconsortium.mext.go.jp/

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