連載コラム「あそぶ→そだつ」第24回

【あそぶ→そだつ】病院ごっこで職業体験

札幌市内の認定こども園で約1カ月前、3歳前後から4歳半ごろの子どもたちが病院ごっこをしていました。クラスではその数週間前にインフルエンザが流行しており、多くの子どもが病院を受診したとのことです。

「病院」が開くと、早速お父さんやお母さんになった子どもたちが赤ちゃん人形やぬいぐるみを抱いてやってきました。受け付けに診察券を出し、椅子が並ぶ待合室で待ちます。

「1番にどうぞー」というお医者さんの声で、診察室に1組の親子が来ました。「今日はどうしましたか」とお医者さん。「風邪をひいちゃいました」とお母さん。「まず体温を測ります。36.3度です」「じゃあ、おなかをあけてください」とお医者さんが聴診器を当て、次は「あーんしてください。奥まで入れてもいいですか。ゲップしないように」と、舌圧子(ぜつあっし)を人形の口に当てます。

次は注射です。「大丈夫だよ、大丈夫だよ、泣かないでよ」とお医者さん。注射が済むと「はい、終わりです。お大事に」と手際よく丁寧に診察が進んでいきました。お医者さんは「次の方どうぞー、3番にお入りください」と患者さんを呼びます。診察が終わった親子は受け付けでお金を払い、薬をもらって帰宅。帰宅後は人形にしっかり薬を飲ませていました。

子どもたちは記憶や模倣によって、自分たちの体験をリアルに遊びます。病院でのできごとは子どもにとって刺激的です。遊びながら「◯◯ちゃんもいっぱいした?」と聴診器を当てられたことや、「△△は注射こわいって泣いた」など、おのおのの経験を振り返っています。不安や恐怖を味わった子どもでも病院ごっこの時は笑顔です。これは立派な職業体験ですね。子どもにとって実体験は貴重な学びです。この積み重ねから、子どもは社会を学んでいきます。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

2024
5/3
FRI

Area

北海道外

その他