旧校舎活用の札幌・カミニシヴィレッジ 認定こども園近くに親の憩いスペースも

旧小学校校舎を活用した「カミニシヴィレッジ」の正面玄関。ここから入るとラウンジが目の前に広がります

保育や習い事などで子どもが通う施設のそばに、親が休憩したり仲間と活動したりする場所があったら便利―。幼い子どものみならず、子育てに奮闘する家族も支援する拠点を目指すのが、札幌市厚別区にある「カミニシヴィレッジ」です。旧上野幌西小学校の校舎を活用した認定こども園を中核として、この冬から、施設内にカフェラウンジやコインランドリー、貸しスペースの機能を加えました。運営者は「子育てを地域で支える拠点にしていきたい」と意気込んでいます。

ラウンジやコインランドリーも開設

「こんにちは‼」。2月のある平日午前、カミニシヴィレッジ内のラウンジそばの階段を、施設内の「認定こども園 新さっぽろ幼稚園・保育園」の園児たちがあいさつしながら降りてきました。利用者の女性は笑顔で手を振ります。同じ建物内のコインランドリーでは、母親たちが、家庭では洗いづらい毛布を大型洗濯槽に入れていました。

コインランドリーで洗濯を終えた母親たち

コインランドリーで洗濯を終えた母親たち

ラウンジで園に通う母親と送別会の打ち合わせをしていた厚別区の主婦伊藤未央さん(28)は昨年4月、同区内から引っ越し、長女(6)と次女(4)を同園に通わせています。まず、以前の園より庭も教室も広いことに驚いたといいます。廊下で縄跳びや跳び箱をするなど「広い空間を有効活用した遊び方ができている」と実感しています。帰宅時は、敷地の端から端まで子どもと歩くのが日課。「よく走るようになり、体力がつき、活発になった」と喜んでいます。

この日、自身も初めてラウンジを利用し、「自宅から近いので、来客があれば使いたい」と話しました。

「子育てを地域で支える拠点に」

カミニシヴィレッジを運営するのは、学校法人「大藤学園」(札幌)。拠点としての整備は「保育の現場は子どもだけでなく、親を支え、取り巻く環境を良くすることが重要」と考えるからです。地域から旧校舎の活用を歓迎する声もあったといいます。旧上野幌西小に隣接して長く園を運営し、同小が統合のため2019年閉校したのに伴い敷地と施設を取得。20年に開設しました。

約1万9千平方メートルの敷地に鉄筋コンクリート造3階建て(延べ床面積約5千平方メートル)の施設棟や体育館などがあります。20年に体育館をプロバスケットボール男子Bリーグ1部(B1)「レバンガ北海道」の練習場に開放したのを手始めに、21年に園を移転。施設内で働く職員などのため、企業主導型保育園も併せて開設しました。

旧校舎を改装したラウンジでくつろぐ利用客ら

旧校舎を改装したラウンジでくつろぐ利用客ら

ラウンジなどは今年1月下旬にオープン。ラウンジには、販売するおにぎりなどを調理するキッチンもあります。夕方には、自習をする地域の中高生の姿も。貸しスペース(有料)では料理教室や音楽の練習ができ、卒園児の母親から「ヨガ教室を開きたい」という要望も上がっているといいます。貸しスペースなどの利用者は子どもの一時預かりもできます。

大藤学園の教務局長大谷壮史さん(42)は、「保護者や地域住民が趣味を生かして働いたり、可能性を広げたりできる場所になるとうれしい。同時に、子どもたちが他者に愛され、社会性を養う場にしていきたい」と話しています。

習い事や遊び自在 個人尊重の保育に

少子化で学校の統廃合が進んでいます。地元には、地域の拠点・シンボルとして引き続き役割を果たしてくれるよう期待する声は多いといいます。

道教委施設課によると、2002~20年度に閉校した公立の小中高校などで、建物が現存する750校のうち、約6割が再利用されています。最も多いのは学校としての活用。次いで企業の施設や、公民館など社会教育・文化施設への転用が多かったです。廃校舎が認定こども園になったのは大藤学園の1件で、保育施設は9件。自治体が子育て支援センターなどを運営する例もあります。

旧校舎利用には長所と短所があります。長所は、初期の建設費が抑えられること。短所は、築年数によっては修繕費用が高くつくほか、暖房などの光熱費、除草などの環境維持にも多くのコストがかかりがちです。

認定こども園で過ごす園児たち。開放的な空間が特長です

認定こども園で過ごす園児たち。開放的な空間が特長です

カミニシヴィレッジの場合、認定こども園の移転により、幼児教育・保育の環境が向上しました。1、2階は3~5歳児クラスがあり、大太鼓を存分にたたける音楽室もあります。3階は課外教室で、同じ棟で預かり保育で時間を過ごす子どもたちが、ピアノや英語、チアダンス、バスケットボールなど外部講師による多彩な習い事を受けられます。

園の廊下は幅広く、各クラスの部屋との仕切りがほぼないため、遊んだり作業したりできるスペースとしても活用。一方、クラスの部屋は、一部を可動式の棚で仕切り、少人数で遊ぶ場所も作れます。吉田深雪園長(59)は「皆で同じ遊びをすることが多かったが、移転後はそれぞれの遊び方を大切にできるようになった」と話し、より個人を尊重した保育ができるようになったと実感しています。

取材・文/田口谷優子(北海道新聞記者)

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