兼業主婦に家事の休業補償は出ないの?

Q.質問

40代パートの女性です。先日、車を運転して赤信号で停車中に追突される事故に遭ってしまいました。事故後も家計のためにパートは頑張って出勤したのですが、仕事が終わる頃には体の痛みがひどく、家事は夫や子どもに代わってもらいました。保険会社からは「パートを休んでいないから、休業の補償はない」と言われてしまったのですが、そういうものでしょうか。

A.回答「損害立証すれば請求可能」

交通事故に遭ってけがを負い、仕事を休まなくてはならなくなった場合、休業で得られなかった収入を加害者に請求することができます。これを「休業損害」と言います。

給与を得ている方は、仕事を休んだことで減った給与分が休業損害となります。専業主婦も家事ができなかったことを休業と評価し、休業損害を請求することができます。専業主婦は外で仕事をして収入を得ているわけではありませんが、家族のために家事労働を行っており、財産的価値があるとされるのが理由です。

専業主婦の場合には女性の全年齢平均の賃金センサス(平均収入の統計資料)を主婦業の対価の年収と見なし、休業日数に応じて休業損害を計算することとなります。

それでは、パート収入があり、かつ家族のために家事を行っている兼業主婦はどのような請求ができるのでしょうか。交通事故でパートも家事も行うことができなかった場合には、パート収入と主婦業の対価としての年収のうち、高い方の金額をもとに休業損害を計算して請求できます。

ご相談のように、兼業主婦が交通事故後、無理してパートを続けて減収はないものの、家事を全くできなかった事例ではどうでしょうか。例えばパートは事務仕事で座ったままできるのに対し、家事は負傷部位が痛むので家族に代わってもらわざるを得なかったといった事情があれば、それを医療記録や陳述書に基づき丁寧に立証することで、休業損害を請求できる可能性があると考えられます。

このような場合の休業損害の計算方法は、女性の全年齢平均の賃金センサスからパート収入を引いた金額に基づくという考え方と、女性の全年齢平均の賃金センサスとパート収入のいずれか高い方に基づくという考え方があり、裁判例も分かれています。

教えてくれたのは

渡辺麻里衣さん

弁護士

わたなべ・まりい/1983年、札幌市生まれ。一橋大学法学部卒業後、大好きな北海道に戻り、北海道大学法科大学院へ。2008年に札幌弁護士会に登録。離婚・相続・債務整理を中心に、民事全般を取り扱う。

北海道新聞くらし面の「みんなの相談室」(随時掲載)では、暮らしに関わる皆さんのさまざまな相談を募集しています。日常生活のトラブルに弁護士が答える法律相談のほか、家計・消費、医療・健康、子育て、生き方、衣食住の困りごとなどをお寄せください。各分野に詳しいプロの回答者が紙面上で分かりやすくお答えします。ただし、相談内容は過去の事例や判例を基に、再構成することがあります。
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