連載コラム「あそぶ→そだつ」第21回

【あそぶ→そだつ】幼児期の「おもちゃの取り合い」は学びの機会

集団で遊ぶと、そこには多くの他者からの刺激があります。周囲の様子が気になり、他の子をじっと見つめたり、おもちゃを触ってみたり、時にそのおもちゃを持って行ったりと、関心を寄せる姿があります。こうした刺激は子どもの行動に影響を与える一つとなりますが、互いの思いにズレが生じると、多かれ少なかれいざこざが生じます。

札幌市内の保育園で3歳前後の女の子が魚型のボタンをつなぐ手作りおもちゃで遊んでいました。そこへ2歳半前後の男の子が来て「ピンク好き」と言いながら、ピンクの魚を箱から取り出しました。女の子は取り返したり箱を遠ざけたりして、取られないよう必死です。男の子は手に入れるために必死です。なかなか解決しません。

その様子を見ていた保育者が言葉で伝えるよう助言すると、男の子は「ピンク貸して」と何度も伝えますが、女の子は「使ってる」「ちょっと待って」と繰り返し断ります。いよいよ保育者が介入して、2人の気持ちが多少落ち着くと、女の子はピンクの魚を男の子に手渡しました。女の子は貸したくなかったのではなく、取られるのが嫌だったようです。

他者と折り合いをつけるには、自己主張だけでなく自己抑制が必要です。3歳以降、自己主張が発達し、自分の気持ちをどんどん伝えることができるようになります。一方で自己を抑制する力は、他者との葛藤の体験から徐々に身についていくものと考えられています。家庭では兄弟姉妹、園では仲間と遊ぶことによって、思う通りにならないことを度々体験します。

大人は子どもに仲良く遊んでほしいと願いますが、葛藤は大切な学びの機会です。必要に応じて大人に助けられながら、徐々に他者との付き合い方を学んでいくのですね。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

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