厚沢部の保育園留学が好評 首都圏の親子など短期滞在

「はぜる」の広大な園庭を走り回る子どもたち。「遊びの中から学ぶ」がモットーで晴天時は一日の大半を屋外で過ごす

「はぜる」の広大な園庭を走り回る子どもたち。「遊びの中から学ぶ」がモットーで晴天時は一日の大半を屋外で過ごす

移住体験用の住宅に滞在しながら、未就学児を認定こども園に1~3週間預ける、檜山管内厚沢部町の「保育園留学」が首都圏などの親子に好評です。人口減と少子化が進む中で、地方の恵まれた保育環境を生かして滞在者を増やし、地域を活性させる新たな取り組みとして注目されています。

広大な園庭 豊かな自然に「感動」

芝生に覆われた広大な園庭を子どもたちが歓声を上げて駆け回っています。「うちは何をやりなさいとかあまり決めておらず、大まかな時間割だけで、子どもは好きな遊びをして過ごします」と話すのは主任保育教諭の西村智香さん(46)。

老朽化した町内の3保育所を統合して2019年にオープンした認定こども園「はぜる」。地元産カラマツやスギの集成材を使った木造平屋延べ床面積1490平方メートルの内部は天窓から陽光が差し込み、スポーツクライミングの「ボルダリング」も楽しめます。

もともと公園だった場所に建設され、園庭を含む敷地面積は6300平方メートル。築山や大型遊具が備えられ、子どもがミニトマトなどをつまめる菜園もあります。隣接する公園や近くを流れる川の浅瀬も遊び場です。

ただ、定員120人に対し、地元の園児は90人を切り、現在の充足率は75%。

100組が利用予定

そんなところに昨年7月、仕事で町と関係があったイベント企画会社「キッチハイク」(東京)の経営者が移住体験に参加。夫婦でテレワークしながらこども園の一時預かりを利用して感動。この恵まれた環境を生かしては―と町に保育園留学の制度化を提案しました。

同年11月から同社ホームページを通じて受け付けを開始したところ、首都圏を中心に応募が相次ぎ、来年3月までの利用予定を含めると計100組にもなります。キャンセル待ちも約100組に達しています。

取材時は3組の親子が利用中。ドイツ・ベルリン在住のシュペア・へニングさん(35)と玲香さん(42)夫妻は夫の休暇で、7月中旬から日本に一時帰国中。美海(みう)ちゃん(5)と由梅(ゆめ)ちゃん(2)姉妹に「いろいろな体験をしたり、日本語を話したりできる環境を与えたい」(玲香さん)とインターネットで調べて、「これだ!」と保育園留学を申し込みました。

本州の蒸し暑さに参っていたへニングさんは「ここはとても快適」。玲香さんは「野菜など食べ物がおいしいし、こども園もすばらしい。冬も来てみたいです」とすっかり気にいった様子。

地元の子どもたちと仲良く遊ぶシュペア美海ちゃん(左から3人目)。「楽しい。いっぱいお友達ができた」と話してくれた

地元の子どもたちと仲良く遊ぶシュペア美海ちゃん(左から3人目)。「楽しい。いっぱいお友達ができた」と話してくれた

町政策推進課の木口孝志係長(41)は「短期滞在者用住宅は6戸あるが、希望の多い夏場などはどうしてもあふれてしまいます。また来たいというリピーターも多いので中古住宅をリフォームしたり、カーシェアもできるようにするなど受け入れ体制を整えたいです」と話します。

いきなり都会の子を受け入れて問題はないのでしょうか。主任教諭の橋端純恵さん(47)は「私たちは大変だと思ったことはないです。地元の子も『次はどんな子が来るの』と楽しみにし、どんな遊びをしようか考え、すぐ打ち解けて仲良くなります。最後の日は大泣きすることが多いです」といいます。

短期滞在者用住宅で休暇を過ごすシュペアさん夫婦。Wi-Fi環境が整備され、家電や調理器具やベッドなどがそろっている。隣には温泉施設も

短期滞在者用住宅で休暇を過ごすシュペアさん夫婦。Wi-Fi環境が整備され、家電や調理器具やベッドなどがそろっている。隣には温泉施設も

地元の子どもに刺激

地元の子たちにとっても留学組の存在は刺激になっています。「『どこから来たの』と尋ねると、東京や大阪という地名が出てきて、46階に住んでいます―と聞いて驚き、知らない世界を垣間見ることで知的刺激になっています」(西村教諭)。

西村教諭は「保育園留学を通じてこの園と厚沢部の子たちのポテンシャルの大きさにあらためて気付かされました。年長の子を持つ利用者からは小学校でもやってほしいという声が多く、地元の子との交流を今後も続けていければ」と話しています。

人口約3500人の厚沢部町にとっても保育園留学は希望の星です。

例えば大人2人・子ども1人が1週間滞在する場合、保育預かりや宿泊などの経費で計12万6千円(8月末時点)。このほか食費などの自己負担があります。木口係長は「年間を通じ100組の親子がまちに滞在する。1組が食費などで10万円を消費するとすれば経済効果だけで約1千万円になるし、それ以上に子どもを連れた家族がここで生活することは地域に活気をもたらします」と話します。キッチハイクは保育園留学を商標登録し、さらに受け入れ先を募集中。道内では日高管内浦河町も試験的に行っています。

取材・⽂/和田年正(北海道新聞編集委員)

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