知育玩具ってどんなもの? 選び方は? 子どもの発達を後押ししてくれる「知育玩具」のヒミツ
「知育玩具」とひとくちに言っても、どんなものを選んで、どう遊ばせたらいいのかわからないという方も多いはず。そこで、子どもの発達を促すために効果的な遊ばせ方や選び方などを、知育玩具のプロにうかがいました。
知育玩具の知られざるルーツ
1837年に世界初の「幼稚園」を開設したドイツの教育者・フレーベル。この幼稚園とともに幼児教育の一環として提唱された教育玩具(当時は「恩物」と呼ばれました)が、知育玩具の始まりだと教えてくれたのは、日本知育玩具協会 代表理事の藤田篤さんです。
「日本に『幼稚園』が入ってきたのは明治時代ですが、ドイツからではなくアメリカを経由して入ってきました。日本はそこから独自の幼児教育を発展させたのですが、ドイツではセットだったはずの玩具の位置付けが日本では下がってしまい、知育玩具の存在が曖昧になってしまいました。幼稚園で知育玩具を使いながら学んでいくというのが本来のフレーベルの考えだったので、この時、玩具と教育の関係が一旦途切れてしまったのはとても残念なことです」
そういった時代的な背景の中で「知育玩具」という言葉は宙に浮いた形となり、ある意味誰もが自由に解釈できるものになってしまったと言います。
知育玩具とは、子どもに“良い成長変化”をもたらすおもちゃ
藤田さんは日本知育玩具協会の代表理事であると同時に、16年ほど前から愛知県で「木のおもちゃ カルテット」のオーナーとしておもちゃの販売も行っています。
2000年代に入りインターネットが普及し、親が子どもに良い教育を施すためのおもちゃを探す際に使ったキーワードが『知育玩具』です。ところがこの言葉で探しても、いいと思えるものが見つからないという声を聞くことが多かったそうです。そこで8年前に『良いおもちゃ』とは何なのか、選び方や与え方を学んでもらう必要があると考え、協会を立ち上げたのだといいます。
「これまで知育玩具を通して出会ったお子さんの成長変化を見ていくと、子ども達がやらされるのでなく、主体的に遊びながら社会性や人間性に変化がもたらされる。そういったものが『良いおもちゃ』だと言えます。具体的には品質が良く、教育的要素があるもの。かといって子どもに媚びず、字や計算を教える認知的なものではなく、非認知的な心の部分から子どものスイッチを入れていくもの。創造力や直感力、やり抜く力や自分を信じる力といった、非認知的能力を伸ばすことで、認知的な能力を得ていくものなんです」
藤井聡太棋士も長年愛用した『キュボロ』とは?
子どもに「良い成長変化」がもたらされる玩具の実例として、将棋棋士の藤井聡太さんの話があります。
史上最年少でプロデビューした藤井棋士は、長年藤田さんのお店の知育玩具を使っていました。中でも3歳から中学生くらいまで愛用していたのが、スイスの知育玩具「キュボロ」です。
「プロデビュー直後に、3歳から藤井さんがこのおもちゃで遊んでいたことを聞いた理化学研究所・脳科学総合研究センターの田中啓治さんは『彼は今後、将棋で凄い才能を発揮するかもしれない』と言ったそうです。その後の藤井さんの快進撃は皆さんご存じの通り。田中さんは長年将棋棋士の研究を行っており、棋士が大勝負で力を発揮するときの脳の動きがわかってきていました。棋士として活躍するうえで重要な、脳の空間認知能力をつかさどる『楔(けつ)前部』と、直観をつかさどる『大脳基底核』が、キュボロを通して活性化したのではないかと分析しています」
キュボロはもともと、心身に障害のある子どもたちの知育のために生まれたおもちゃです。溝や穴があるブロックを組み合わせて玉が転がるルートを作り、上からビー玉を転がして遊びます。ブロックがずれないように注意しながら、玉の動きが見えない内側にもルートを作るので、想像力や集中力、空間認識能力などが身に付くと言われています。
日本では「おもちゃ」として遊ばれているキュボロですが、スイスやロシアでは、小学校でプログラミング授業の教材として使われているそうです。
ゴールからビー玉が出てくるまで、ルートを組み直すことを繰り返すキュボロの遊びには、「予測→検証→修正」という問題解決のプロセスが含まれているため、プログラミング能力(=問題解決能力)を養うことができるのだといいます。
知育玩具による子どもの発達と、促すポイント
3歳までに体験してほしい、3つの経験
本来は対象が5歳以上という年齢設定のキュボロですが、日本では3歳からやらせたいという親のニーズが多く、藤田さんはNHK文化センターなどで遊び方のわかる「キュボロ教室」を開催。その教室を通して、藤田さんはできるだけ子どもたちに3歳までに体験してほしいことに気づいたそうです。
① 積み木遊び
初めは崩すことを楽しみます。この「崩す」ことは失敗ではありません。これを親が受けとめてあげることで、子どもは次の段階である「積む」遊びができるようになり、想像力や思考力の基盤を築いていきます。
② 絵本の読み聞かせ
親が繰り返し読み聞かせることで、初めはなかなかじっと聞いていられなくても、徐々に聞いていられる忍耐力がつきます。
③ 「落ちる動き」を感じる
例えば雨粒が落ちると音が鳴り、流れていく。そういった落ちる動きをじっと見られる子は、待てる力や想像力が備わります。
「実体験がしにくくなっている現代の子どもは、この3つの経験が乏しいと感じます。これらを経験し土台となる感性を育むことで、キュボロのような知育玩具の力をより発揮させることができるんです」
子どもの発達に合った知育玩具を選んで
藤田さんは、知育玩具は子どもの年齢や発達に合わせて与えることが大切と話します。
「低月齢のときには低月齢に合ったおもちゃで遊ぶことで、遊びこなせるようになり力が付きます。その力が付くことで、次はもう1段階上のもので遊ぶことができる。親はつい子どもの年齢より上めのものを与えたがりますが、年齢に合ったものやほんの少し先のものを与えることで、子どもの伸びしろも広げていくことができます。段階を踏むことで効果を発揮するのも、知育玩具の特徴です。それでも選ぶのが難しいと感じる方は、ぜひ専門店を上手に活用してください」
「与えておしまい」ではなく「まずは一緒に」
日本ではおもちゃを与えておけば、子どもが勝手に一人で遊ぶものという思い込みが多くみられます。
「もし我が子を自立させたいと思うなら、最初は一緒に遊んであげてください。自立させるために必要な子どもの力に『安心』と『見通し』があります。子どもは『このおもちゃで遊べばきっといい結果が出る』という見通しが持てれば、遊んでみようと思います。大切なのは、遊んでうまくいかなかったときに親が一緒にいること。助けてもらえるという安心感が生まれ、遊びに没頭することができるんです」
そのうち一人で遊べるようになれば、失敗から学ぶ、自分で考える、新しい発想を思いつくといった「非認知能力」を、おもちゃが教えてくれるのだと藤田さんは言います。
大人が思う以上に「良い知育玩具」というのは、子どもの力を引き出してくれる能力をたくさん秘めています。今回ご紹介した子どもの発達を促すポイントを押さえて、親子で知育玩具に親しんでいきましょう。
取材・文/苗代みほ
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教えてくれたひと
藤田篤さん
知育玩具と保育環境、絵本・子育ての専門家。多くの講演や研修を通じて、知育玩具や絵本の与え方と保育環境の指導を行う。2014年に一般社団法人 日本知育玩具協会を設立。著書『子育てを感動にするおもちゃと絵本』(KTC中央出版)が、子育ての手引き書として高く評価されている。2児の父。
https://edu-toy.or.jp
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