連載コラム「あそぶ→そだつ」第17回

【あそぶ→そだつ】人形遊びに自分を投影

子どもは1歳ごろから見立て遊びが始まり、経験からイメージを働かせて、飲む、食べるなど生活の再現遊びをします。その後、大人のまねをして料理をしたり、誰かに食べさせたりなど、次第にお世話遊びをするようになります。

お子さんが自分で食事をするようになったころ、お母さんやお父さんの口元に食べ物を運んでくれたことはありませんか。してもらっていた自分から、誰かに何かをしてあげる役割の交代が見られるようになります。そのころ、子どものそばに人形があるとよいでしょう。

数年前、江別市の認定こども園で見た2歳過ぎの女の子の遊びを紹介します。女の子は人形の口元まで食べ物や飲み物を持って行き、「おいしいね」と言葉をかけ、大変面倒見のいいお母さんのようでした。すると突然、女の子は人形の頭をつかみ、椅子から人形を落としたのです。

急に起きた行動に驚いて見ていると、女の子は床に落ちた人形をすぐに抱きかかえ、「だいじょうぶ?」と優しい声で語りかけ、人形に頬ずりしました。

私は、女の子のしたかったことが人形への意地悪ではなく、これだったのだ―と思いました。

子どもは、人形遊びで自分を人形に投影させることが多々あります。大人にしてもらってうれしかったことをまねたり、悲しみを乗り越えようと人形に意地悪をしたり、また、自分がしたいのにできないことをさせ、喜びの体験を得ようとすることもあります。

子どもも大人のように喜びや悲しみ、楽しさや苦しさを経験しています。人形はそんな子どもたちの気持ちに寄り添い、子どものすることにじっと向き合ってくれる存在です。子どもが人形と向き合う時間に目を向けてみましょう。子どもの気持ちが見えるかもしれません。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

2024
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