連載エッセー「ステキな家をつくろう」

#16|初のプロポーザル 温泉施設に恐竜の足跡

ラウンジは、誰もが思い思いに過ごせる「日曜日の公園」をイメージしました。仕切りを取り払い、天井の高いオープンスペースに家具を配置していろいろな居場所をつくりました(写真提供/三木万裕子さん)

ラウンジは、誰もが思い思いに過ごせる「日曜日の公園」をイメージしました。仕切りを取り払い、天井の高いオープンスペースに家具を配置していろいろな居場所をつくりました(写真提供/三木万裕子さん)

改修工事に携わった福井県勝山市の公共温泉が、2020年の大みそかにリニューアルオープンしました。公開プロポーザル(技術提案)にチャレンジし、選ばれた案件です。プロポーザル方式、公共事業、温泉施設…。どれも自分たちにとっては初めての経験でした。

設計の仕事は依頼を待つほかに、コンペやプロポーザルに参加して選ばれる方法があります。ただ、公共事業だと、特に過去の類似業務実績や有資格者の数などが応募要件になることもあり、経験の浅い事務所にとっては狭き門となります。また、内容によっては応募数が数十にのぼることも。今回の案件は、幸運にも応募が1桁台でした。

仕事は設計工事監理です。施設の設計のほか、工事が図面通りに進められているかも確認します。2019年7月に選ばれ、その年度内に実施設計を終え、2020年7月末に着工しました。移動は大変でしたが、隔週ペースで行き来しました。

勝山市は「恐竜のまち」です。日本の恐竜化石の8割が出土し、世界三大恐竜博物館の一つに数えられる県立恐竜博物館があります。メインラウンジの内装は、化石が出土する「手取層」と呼ばれる地層のイメージを元に、椅子やテーブル、仕切り、棚などとして使えるさまざまな高さの多角形状の家具を無数に配置し、多様な場所を作りました。また、繊維のまちでもあり、恐竜の足跡柄のオリジナル生地を製作し、ソファの貼り地としました。

オープン後に訪れ、利用者の方々が思い思いにくつろいでいる様子を見た時は、描いた光景が実現していることに感動しました。長く地元の方にも愛され、観光客にとっても喜ばれる施設になってほしいと思います。

三木万裕子さん

1級建築士

みき・まゆこ/東京都内の建築設計事務所勤務を経て2013年に独立。「三木佐藤アーキ」を主宰し、建物のほか家具のデザインや製作も行う。札幌市内の古い農家の住宅を修復し、夫で建築家の佐藤圭さん、長男の千木(せんぼく)君と3人で暮らす。札幌市出身。

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