• 発達障害児のヘアカット、道内にも対応店 事前に来店、雰囲気に慣れてもらう

    帯広市の理美容室「VESS」で、関場統くんの髪を切る長岡行子さん(左)=長岡さん提供
    生まれ持った感覚の過敏さや落ち着きのなさといった特性のために、散髪が苦手な発達障害の子どもたち。道内にも安心して利用できる環境を整える店舗があります。子どもの好みに配慮し、何度も店に通って雰囲気に慣れてもらうなど、試行錯誤を続けています。

    帯広市内の理美容室「VESS(ベス)」で2日昼、美容師の長岡行子さん(51)は、自閉症と難聴、知的障害のある関場統(すばる)君(8)をハイタッチで受け入れました。「あいさつできたね、偉いね」と笑顔で声をかけます。

    来店はこの日で5回目。母親の智子さん(39)のカットとカラーを済ませたら、次は統君の番です。統君は30分ほど店内を動き回った後、智子さんの膝の上に座りました。大好きな歌手の五木ひろしさんが歌う動画をスマートフォンで眺める隙に、通常の約半分の8分で髪形を整えました。

    ケアマネジャーから情報

    長岡さんは約15年前から発達障害のある子のカットに取り組んでいます。2018年には、発達障害児が落ち着いてカットを受けられる手法を学ぶ京都のNPO法人「スマイルカット講座」を修了しました。現在は発達障害のある3歳から20代まで約20人が訪れ、釧路や旭川、札幌から泊まりがけで通う人もいます。

    長岡さんは「いきなりカットはできない。この場所を好きになってもらうところから始める」と話します。店内でお絵描きだけをして帰り、8回目の来店でやっと前髪を切れた子もいました。

    担当するケアマネジャーから事前にいろんな分野の子どもの好き嫌いについて情報収集しています。「散髪にとどまらず、孤立しがちな親たちを地域とつなげる役割も担いたい」と願っています。

    道内で「スマイルカット講座」を修了した店舗は「VESS」を含めて5店。講座を提供する京都のNPO法人「そらいろプロジェクト京都」の代表、赤松隆滋さん(47)は「散髪の喜び、気持ちよさを感じるのは誰もが持つ権利だと思う。より多くの理美容室で発達障害の子への合理的な配慮ができるようになるといい」と話します。

    専用椅子やケープ

    小樽市の理美容室「カット&パーマ ヤマシタ」でも、市内外から発達障害のある子を積極的に受け入れています。会長の山下秀治さん(69)は、知的障害者施設での訪問理美容を40年以上続ける中で独自のノウハウを培ってきました。

    幼児用に自動車の形をした椅子や、親と手をつなぎながらカットできるケープ、DVDプレーヤーなどを用意しています。事前にふだんの散髪の様子も見学できます。

    小樽市の理美容室「カット&パーマ ヤマシタ」では、自動車を模した椅子や親と手をつなぎながらカットできるケープを用意する
    小樽市の理美容室「カット&パーマ ヤマシタ」では、自動車を模した椅子や親と手をつなぎながらカットできるケープを用意する

    散髪が中断した場合は、終了するまで料金をもらいません。山下さんは「安全に切るには、コミュニケーションに時間をかけ、その子と自分の呼吸を合わせることが大切」と話しています。

    問い合わせはVESS(電)0155-38-3558、カット&パーマ ヤマシタ(電)0134-34-1078へ。

    反応に寄り添う視点を
    北海道文教大学・木谷教授(臨床心理学)

    発達障害のある子がヘアカットを苦手とする理由や、周囲が持つべき心構えについて、北海道文教大学こども発達学科教授で、発達障害に詳しい木谷岐子(みちこ)さん(臨床心理学)に聞きました。

    発達障害のあるお子さんの中でも、特に感覚過敏がある場合、美容室で「動かないで」と言われ、はさみなど刃物を向けられる状況は、その子にとって脅威の場面となり得ます。

    周囲の人は、お子さんの反応に寄り添う視点を持つことが最も大切です。

    自分はいつでも「嫌だ」「やめて」と言える。「こうしてほしい」と言えば、聞き入れてもらえる存在なんだとリラックスできることが、散髪を乗り越えるポイントになるでしょう。

    具体的には《1》カットの前に使う道具を見せる《2》家庭で理美容室のように鏡の前でカットする《3》「ここの髪を短くするよ」と実況中継する―などが考えられます。

    嫌な感覚を取り除いて
    北海道自閉症協会札幌分会会長・松岡さん

    散髪を嫌がる子どもに対して、親ができる工夫について、北海道自閉症協会札幌分会(札幌ポプラ会)会長で、自閉症スペクトラム支援士の松岡円さん(48)に聞きました。

    感覚過敏の子どもは、散髪用ケープの首回りでぺたっとする感覚や、シャカシャカとこすれる音が嫌な場合があります。髪を留めるクリップやバリカンの音が苦手なら、それらをできるだけ取り除いてあげます。

    これから何を行うかを事前に絵カードで説明するのも有効。じっとしていられない傾向があるなら、「10数える間だけやってみよう」と促してみましょう。

    好きな音楽を聴いて、一緒に歌ってカットしたり、ごほうびを用意したりする方法も。まずは親が通う美容室に相談してみるといいですね。美容室での散髪を乗り越えることは、その子にとって成長のステップ。前髪だけでも「切れた!」と自信になります。

    取材・文/有田麻子(北海道新聞記者)

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