バランスボールで産後ケア 体力づくりや心身不調の回復に

教室で指導する佐藤さん(左)。参加者の乳児が間近で見守る

札幌・佐藤さんが教室

産後の母親のセルフケアに、バランスボール運動を広めたい―。札幌市中央区の佐藤摩耶(まや)さん(45)は、母親の体力づくりと心のケアのためのバランスボール教室を札幌で開いています。産後に体力低下を感じたり、育児に追われて疲弊したりする母親は多いです。自身も3児を育てていて「産後に体を動かすことの大切さを知ってもらい、北海道中のママを元気にしたい」と展望を語っています。

上下に弾む運動 抱っこしながらでも

バランスボールは、大人が腰掛けられるサイズのゴム製。姿勢を正して座るだけで体幹を鍛えられ、弾力性を利用して上下に弾むと、有酸素運動ができます。子供を抱いたままでもできるので、育児中に取り組みやすいです。

佐藤さんは、一般社団法人体力メンテナンス協会(東京)の産後指導士とバランスボールインストラクターの資格を持っています。以前は薬剤師をしていて、2015年の3人目出産後に参加した協会主催の体験会が、転機となりました。出産のたび心身の不調に悩んでいましたが、「視界が明るくなり、体がすっきりした。経験したことのない楽しさ、開放感があった」と魅力を感じました。

心もケアする教室 出産から何年でも参加OK

16年に資格を取り、最初はバランスボール運動だけを教えていました。「産後の1カ月検診後、母子手帳は(子どもの成長を記録する)子手帳になる。母親の心と体のケアは軽視されている」。そんな思いもあって、18年から心のケア講座も組み合わせた教室「産後トータルケアクラス」も開いています。

ケアクラスは週1回2時間の全6回で、参加者同士が語り合う時間があるのが特徴です。テーマは自分が好きなこと、親子の関係、数年後のビジョンなど。「出産すると母親は子供の黒子になりがちで、自分のことを話す機会は少なくなる。自分に向き合い、自分らしく生きるコツが講座で分かる」といいます。肩こりや自律神経のコントロールなど、産後の悩みのケア方法も伝えています。

参加者からは「心に余裕ができた」などと好評です。昨年、3人目の出産後に参加した札幌市の平田裕理子さん(37)は「教室で自分を見つめ直し、ほかの人の話も聞いて楽しかった。体力がつくし、気持ちが楽になった」と話します。出産から1カ月たった後の早い時期ほど効果的なのだそうですが、何年経過していても参加ができます。出産から10年後に参加した人もいるそうです。

インストラクターも育成

「体力をつければ、楽になることがたくさんある。新しいことをやる力も出るし、運動しないのはもったいない」。そう訴え続けて、参加者の中から16人のインストラクターが育ちました。そのうちの主に5人が、札幌近郊で活動しています。

広く道内各地でインストラクターを育成し、子連れで運動ができる場を全道に作りたいと考えています。自治体と連携した教室の開催も模索しています。

ケアクラスや養成講座は、オンラインでも受講できます。申し込み、問い合わせは、佐藤さんのホームページの専用フォームで受け付けています。

骨盤緩みの回復早める/寝かしつけにも

道教大岩見沢校の元准教授で、2021年度まで道内で産後の母親にバランスボールの指導を行っていた奈良教育大の寅嶋(とらしま)静香特任准教授(運動生理学)に、運動効果を聞きました。
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産後の骨盤の緩みを戻すのを早めることが期待できます。経膣分娩(けいちつぶんべん)も帝王切開も、出産後は骨盤周辺の筋肉が壊れた状態です。バランスボールに座るだけで壊れた筋肉が活動し、弾めばリハビリにもなります。尿を我慢する筋肉も使うため、尿漏れが改善した人もいます。

運動量が多いのも特徴です。短時間で体力向上を図れ、子育てに必要な体力を手軽に獲得できます。

有酸素運動には気分向上などの効果がありますが、道内で行った調査でバランスボールでも気分向上の効果がみられました。弾んだ後は、弾む前よりも不安や怒りなどの感情が下がりました。

赤ちゃんを抱っこして弾むと、眠ることがあります。スクワットの動きで寝かしつけると腰に負荷がかかりますが、バランスボールで弾めば負荷をかけすぎず腰痛予防になります。乳幼児揺さぶられ症候群にならないよう、しっかり肘関節で子供の首を支えて横向きで抱っこします。首が据われば、長時間でなければ縦の抱っこも大丈夫です。

バランスボールを始める時はできれば指導を受け、正しい利用の仕方を必ず学んでください。スポーツと同じで、自己流はけがの危険性が大きくなります。

取材・文/石橋治佳(北海道新聞記者)

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