遊ぶ姿から心身の成長知る 連載コラム「あそぶ→そだつ」最終回、筆者の増山由香里さん

子どもの遊びについて語る札幌国際大准教授の増山由香里さん

〝周囲の目〟子どもの刺激に

北海道新聞朝刊子育て欄とmamatalk で連載されたコラム「あそぶ→そだつ」が30回目となる今回で終了しました。子どもの遊びは心や体の発達にどのような影響をもたらすのか、遊ぶ子どもの様子から保護者らは何を学びとることができるのか―を解説してきた筆者で札幌国際大准教授の増山由香里さん(51)=発達心理学=は、自身が保育現場を訪ねた経験から、「子どもにとっては『周囲に見てもらう』ことも大きな刺激になる」と指摘します。

ますやま・ゆかり

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めました。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)があります。

すぐに声を掛けず、見守りを

増山さんは、研究に協力してくれる札幌市内などの保育園などを隔週ペースで訪れています。2021年4月に始まった「あそぶ→そだつ」の内容は、そのような保育現場で見たことが基になっています。「子どもが自由に遊びを選択し、思い思いに遊んでいるのを見せてもらいました」

初回「行動から心の動き探る」(https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/56931/)は、木枠に彫られたパーツを合わせる「型はめ」で遊ぶ1歳半ぐらいの男の子が、木枠に合わせるのではなく、パーツを何度も投げては拾う姿を紹介しました。

何をしたいのか分からず、声を掛けずに見続けていると、パーツをはめるのではなく転がることが面白いのだと気付いたのです。増山さんはコラムに「『投げないでここにはめてね』と言ってしまいがちですが、見守り続けることで心の発見につながりました」と記しています。

子どもの遊びへ大人が介入することについて「大人が教えたり、指示したりしないことで、子どもは自分なりに遊び満足を感じるのです」と解説します。「周囲にいる大人を観察していると『あと10秒待ってもらえるといいのに』と思うことがあります」

2022年8月の第17回「人形遊びに自分を投影」(https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/170448/)で取り上げた、2歳過ぎの女児が、人形に対して面倒見の良いお母さんのように振る舞っていたのに、突然、人形の頭をつかんで椅子から落としたケースも、介入せずに観察することが大切なことを示した例です。

「女の子はすぐに人形を抱きかかえて『だいじょうぶ?』と人形に語りかけました。自分がしてもらってうれしかったことを人形に投影していますが、すぐに声を掛けないことが大切だと分かる例です」と指摘しました。

周囲が子どもを見ていること自体にも意味があると話します。「子どもは、自分が見られていることを分かっています。何かがうまくできた時、それをほめてあげると、新たな工夫に取り組んだりする意欲につながります」

体を使い発達促す経験値に

おもちゃの選択については「家庭においては、長く使えるものを勧めたい」。2022年4月の第13回「色や決まりを意識する」(https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/133656/)に登場した、穴の空いた5色の円形パーツを5本の棒に通して遊ぶ木製おもちゃ「プラステン」などが代表例です。また「大人も楽しめるおもちゃであることは大きな要素」と話します。一方で、保育現場に対しては「発達に合わせたおもちゃを備えたり、遊ぶための環境を整えてほしい」と求めています。

外遊びの意義も何度か紹介しました。22年1月第10回「雪山で身体能力アップ」(https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/111504/)、同年6月第15回「散歩が育む自然への好奇心」(https://mamatalk.hokkaido-np.co.jp/article/151069/)などで詳解しています。

室内、室外問わず、遊びの重要なポイントは、体を動かすことにあると強調しました。「体を使うことが、発達を促す大切な経験値になる。『おとなしく見てくれるから』とビデオを見せるだけでは、この経験は積み上がらないのです」

取材・文/弓場敬夫(北海道新聞くらし報道部編集委員)

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