連載コラム「あそぶ→そだつ」第29回

【あそぶ→そだつ】文具の貸し借り 成長に

1カ月ほど前に訪れた札幌市内の認定こども園では、年長組の夏の特別行事に向けた準備が始まっていました。特別行事では朝から楽しい企画が用意され、夕食を食べ、キャンプファイアを楽しむそうです。

夕食は外のテラスでピザを焼いて食べるという特別感。材料は園の畑で子どもたちが育てたトマトも収穫して使います。春からの活動のつながりが見えます。

私が伺った日は、夕食に使うビニール製のテーブルクロスを作っていました。テーブルを共にする4人ほどが、クラスみんなのお気に入りの絵本に出てくる不思議な生きものをモチーフに、デザインしていきます。

「私◯◯描こうかな」と相談しながら作業が進む中、「これ使っていい?」「私も使いたい」「終わったら貸して」など、ペンの貸し借りが盛んに行われます。何げない光景ですが、共同の道具を他者と大切に使うことは、人間関係の育ちがなければ難しいのです。

1年前にこのクラスを訪れた際には、貸し借りが難しそうでした。自分のことで精いっぱいで、他者に物を貸す余裕などなかった印象があります。この園では文具を個人で所有せずに、クラスで共有しています。必然的に貸し借りしなければならないので、経験の機会が増えますね。

そこへ、男の子が分度器を2枚持ってきてクロスの上に置き、縁取りを始めました。円を描こうとしています。半円が二つで円になることは、これまでの遊びで身についた知識です。その知識を使って、次は自分で正確な円を描けると思いついたのです。

大人にとっては容易な発想かもしれませんが、知識を活用する力も、今の子どもたちに求められています。隣で作業をしていた別の男の子が、同じように円を描き始めました。知恵の伝達です。子どもは周りをよく見ています。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

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