歯医者さんは怖い? 先入観なくそう 「痛くないよ」ではなく「大丈夫だよ」

母親に見守られながら、口の中を見てもらう子ども=6月3日、札幌市北区の岩寺小児歯科医院

永久歯になる前から口の中の健康を保つことは大切ですが、幼い子どもの歯磨きや歯科診療をハードルと感じる親は少なくありません。子どもの不安を減らすため、専門家は「痛い、怖いといった先入観を持たせないことが大事」と助言します。子どもと保護者の負担を軽くする方法を探りました。

否定的、不確かな言葉は使わない

「大丈夫だよ」。札幌市北区のパート従業員女性(37)は、市内の小児歯科に連れて行った長男(1歳9カ月)に笑顔で声をかけました。虫歯予防のため生後9カ月ごろから定期的に通っています。長男は口の中を触られるのが苦手ですが、女性に抱っこされたまま声を掛けられると安心するのか、歯科衛生士に向けて口を開けました。女性は歯磨き指導の後、長男を褒めることを欠かしません。

北海道小児歯科医会会長の堀稔さん(48)によると、乳幼児のうちは口の中を触られることに慣れておらず、初めての場所や人に戸惑うことも多いといいます。3歳ごろになると会話によるコミュニケーションがしやすくなり、「診療で使う器具などを見せて具体的に説明すると、スムーズにできるようになります」と話します。

子どもを不安にさせないために親などができることは何でしょうか。堀さんは「先入観を持たせないで」と呼びかけます。「痛い」など否定的な印象を持たせない、「診るだけだよ」など、その通りになるかどうか不確かな言葉を使わない、といったことを心掛けましょう。

歯科検診で子どもを不安にさせないために

乳歯のケアをおろそかにしない

永久歯は6歳前後から生えるが、堀さんは「乳歯はいずれ生え替わるからとケアをおろそかにせず、虫歯にならない生活習慣が大事」と強調します。乳歯に虫歯で穴ができたり、抜歯したりすると、永久歯の生え方に影響が出るといいます。

口腔(こうくう)ケア用品は多様化しています。歯ブラシによる歯磨きが苦手な場合、歯磨き用ウエットシートやガーゼで口の中を触ることに慣れることから始めても良いです。ただ、洗口剤やガムでは「歯垢は落ちない」(堀さん)ため、注意が必要です。

子どもを専門にみる小児歯科は、成長を見据えた助言をしてくれ、子どもが不安にならないよう、内装などを工夫している場合が多いといいます。感覚過敏などがある子どもについては、堀さんは「小児歯科や障害者歯科の検討を」と勧めています。

障害者歯科は感覚過敏に配慮

歯科通いが苦手な子どもの中には、感覚が過敏なため歯ブラシが苦手だったり、歯の痛みをうまく伝えられなかったりする場合があります。「障害者歯科」は、そうした特性や障害に配慮して対応する専門の歯科です。

障害者歯科は、発達面に不安があったり、心身に障害などがあったりする子どもから大人までが対象。1984年に発足した日本障害者歯科学会(東京)によると、昭和初期から障害児向けの治療を中心に始まり、昭和40年代以降、全国に広まっていったといいます。

一般の歯科とは異なり、心身の障害に詳しい歯科医が発達検査を行い、実際の発達状態や障害などに合わせて診療を行います。例えば、こだわりや好き嫌いが激しい場合は、苦手と感じる器具をなるべく見せないなど、配慮します。言葉だけで理解が難しい場合、診療内容が描かれた絵カードを使って説明します。

乳幼児健診で相談を

歯科衛生士で北海道自閉症協会札幌分会(札幌ポプラ会)会長の松岡円さん(48)は「発達障害のある子どもの中には、感覚過敏があるケースもあります」と話します。治療器具を使う時、音に対してはヘッドホン形の遮音器具を着用させたり、振動や光に対しては弱いレベルから徐々に慣れさせたりするといいます。

同学会理事で、北大大学院歯学研究院・歯学部教授の八若(やわか)保孝さん(62)は「まずは乳幼児健診で相談した上で、早期に専門の医師に診てもらって」と呼びかけます。身近に小児歯科などがなく、自宅から通いやすい歯科に行く場合、子どもの障害や苦手なことなどを事前に相談すると良いでしょう。

道内では、同学会の認定医・専門医が札幌や旭川など6市町村16施設にいるほか、高度治療に対応する歯科保健センター(道内6カ所)や、大学病院などと連携して対応する「北海道障がい者歯科医療協力医」制度もあります。5月現在、75市町村232人の協力医が道内をカバーしています。

医師や施設を探す場合、日本障害者歯科学会のホームページ北海道障がい者歯科医療協力医名簿のホームページが参考になります。

取材・文/田口谷優子(北海道新聞記者)

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