連載コラム「あそぶ→そだつ 」第26回

【あそぶ→そだつ】思いやりが生む信頼

1カ月前に訪れた札幌市内の認定こども園(3、4、5歳児混合クラス)の様子を紹介します。4月中旬とあって、まだ園生活に慣れていない3歳の新入園児がいました。

不安で時々涙を流すその女の子が、赤ちゃん人形をあやして遊んでいました。すると赤ちゃんから目を離した少しの間に、別の男の子の年少児がその人形を抱いてお出かけに行ってしまいました。

それに気がついた女の子は、「赤ちゃーん、どこー? 赤ちゃーん」と周りを見回します。しかし、見つけられません。その様子を近くで見ていた5歳の女の子は、自分が抱いていたもう1人の赤ちゃん人形を貸してあげました。さらに、「◯◯ちゃんがお姉ちゃんで、□□がお母さんね」と、2人でごっこ遊びが始まりました。

お母さん役の5歳児は、お姉さん役の3歳児に「寒いから着せて」と赤ちゃんのジャンパーを渡します。3歳児はジャンパーを着せようと頑張りますが、うまくいきません。すると、5歳の女の子に「やってー」とお願いしました。自分から助けを求めることができたのです。

入園当初は知らない人や場所の中で、誰に頼ったら良いのか、どこで何をしたら良いのか、不安がいっぱいです。この事例の女の子は、人形を貸してくれた5歳児とのやりとりがあったからこそ、その後5歳児に助けを求めることができたように思います。

5歳の女の子にとっても、3歳児の不安な気持ちをくみ取り、人形を貸し、服を着せる手伝いを行うという、思いやりの気持ちを表す貴重な機会になったでしょう。このような頼り、頼られる関係を経験した子どもたちが、また誰かを思いやり、行動できるようになっていくのだろうと、今後の子ども同士の関わりにも期待が持てます。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

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