母子健康手帳11年ぶり改訂 母親のメンタル配慮 父親に育児参加促す

写真はイメージ(Graphs / PIXTA)

母子健康手帳が11年ぶりに見直され、4月から各自治体で交付が始まりました。今回の改定では、父親ら家族の育児参加を進めるほか、母親の心の健康状態に配慮した内容になりました。道内でも各自治体が記入欄を独自に充実させるなどの工夫をしています。QRコードを記載して外部の育児情報にアクセスできるようにした自治体もあり、専門家は「スマホを使いこなす世代に、利用しやすくなった」と評価しています。

手帳は、妊娠、出産から育児までにわたる母子の健康記録を基本とし、育児の手引書としても役立ちます。各自治体が妊娠の届け出をした人に交付しています。厚生労働省が社会情勢などを考慮して約10年ごとに見直し、今年4月からは、こども家庭庁が事業を担っています。手帳の構成は、妊産婦や乳幼児の健康記録など全国共通の部分と、子育てに役立つ情報を自治体が独自に編集もできる部分とがあります。

こども家庭庁によると、全国共通の主な改定点は①父親や家族による記録の充実②妊産婦のメンタルヘルスへの配慮-です。①については、これまでも父親の健康状態や育児休業について記入する欄はありました。育児への関わりをより深めるため、赤ちゃんを迎える気持ちを記入する欄を新設しました。

②については、産後うつなど手助けが必要な母親を適切な支援につなげるため、産後うつの疑いを数値化する「EPDS(エジンバラ産後うつ病質問票)」について記録する欄や、助産所などで母子への支援を行う産後ケアを利用した際の記録欄を新たに作りました。

そのほか、全国共通の部分では従来の記録のタイミングに加えて、生後2週間と2カ月の時点で保護者が子どもの様子を書く欄などを追加。自治体の任意の様式では、18歳までの成長を記録する欄や、災害時の対策欄などを設けるよう促しました。

母子健康手帳の主な改定ポイント

18歳までの成長、災害の備え・・・自治体、個々に記入欄

今回の改定を受けて、札幌市は、手帳の表紙に「親子手帳」と併記しました。健康企画課の担当者は、ひとり親や里親、同性パートナーなど「家族の多様性に配慮し、親子という表現にしました」といいます。

また同市は、妊娠中や産後の母親の食事といった緊急性の低い子育て情報についてはQRコードを掲載し、国の「母子健康手帳情報支援サイト」に誘導するようにしました。この結果、従来より17ページ薄い91ページとなり「持ち歩きやすくなりました」(担当者)といいます。

2016年度から、母子健康手帳のほかに、希望者に父子健康手帳を配布している苫小牧市は、今回の改定について「父親らが、より積極的に子育てをするようになってほしい」と話します。同市は、産後ケア事業にも力を入れており、今回の改定に合わせて母親対象の利用記録欄を新設し、より充実を図りました。

北海道医療大教授の常田美和さん(母性看護学)は、①QRコードなどから適切な情報にアクセスできる②父親らの育児参加を促進③多様な家族に配慮した表現―といった点を評価します。「共働き世帯が6割を超える中、母親のみならず、家族で育児に向き合うことが重要になります」と指摘しています。

常田美和教授

常田美和教授

手帳のデジタル化進む

厚生労働省の検討会は、母子健康手帳のデジタル化について議論を重ねてきました。3月の報告書では、マイナンバーカードの取得者向けサイト「マイナポータル」で閲覧できる情報を拡充する方針を示しました。乳幼児検診や妊婦健診の記録の一部については、すでに閲覧できるようになっています。

道医療大の常田教授はデジタル化について「(個人情報の)安全を強く意識し、情報の保存期間や管理のあり方などについて、明確な方針を示してほしい」と求めます。また、データ化が進んでも母子のケアには対面から得る情報も重要と強調します。

厚労省から事業を引き継いだこども家庭庁は「当面は紙の手帳を併用しつつ、デジタル化に向けた整備を進めます」といいます。

このほか、道内では、独自に、子どもの身長や体重などを記録できるアプリを導入している自治体もあります。アプリを運営する複数の企業によると、道内では、少なくとも50以上の市町村が導入。2019年度から活用している宗谷管内猿払村は「災害などに遭って紙の記録を失っても、データを残せます」などのメリットを挙げています。

取材・文/田口谷優子(北海道新聞記者)

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