知っていますか?小児医療の最後のとりで「PICU」〜北海道の子どもの命をつなぐ唯一の6床〜

PR / 北海道文化放送

知っていますか?小児医療の最後のとりで「PICU」〜北海道の子どもの命をつなぐ唯一の6床〜

メディカル・ヒューマンドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系/月曜21時)が、10月10日にスタートしました。PICU(Pediatric Intensive Care Unit)とは、内科・外科を問わず、重篤な子どもの患者の処置や治療をする集中治療室のこと。いわば小児医療の「最後のとりで」です。PICUとはどんな施設で、医療者はどのような想いで子どもたちに向き合っているのでしょうか。北海道で唯一のPICUを有する「道立子ども総合医療・療育センター(札幌、愛称・コドモックル)」を訪ねました。

温かな雰囲気、厳粛な管理体制

壁や窓を彩るカラフルな色紙飾りが、高度な医療機器が並ぶPICUの雰囲気を和らげている

壁や窓を彩るカラフルな色紙飾りが、高度な医療機器が並ぶPICUの雰囲気を和らげている

「起きたの?」。心臓手術を明日に控えた4カ月の赤ちゃんが、お昼寝から目を覚ましました。ベッドサイドで生体情報モニターの数値を確認していた看護師が、ほんのわずかな動きに気づきます。優しく声をかけ、首の向きを変えてやり、頭をそっとなでます。

コドモックルは、胎児期からの一貫した医療・療育を総合的に提供する道内唯一の小児総合専門病院。紹介予約制で、高度先進医療や医学的リハビリテーションなどを行なっており、全道各地から高度な治療を必要とする子ども達が集まります。その中でも、重篤な患者に対して集中的に観察・治療を行うのがPICUです。

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まるで保育園や幼稚園のような温かな雰囲気-。看護師の優しい声かけだけでなく、壁や窓いっぱいに飾られた花や動物の色紙飾りが、透析装置やECMO(体外式膜型人工肺)の圧迫感を和らげています。

「(子どもの医療処置の)全ての決定権は家族にあります。患者さんはもちろんですが、家族の不安や緊張を少しでもほぐしてあげたい」。齋藤望看護師長は、看護師が季節に合わせて手作りするという色紙飾りに目を細めます。

「限られた面会時間を少しでも温かい家族の時間にしてほしい」と空間づくりの意義を話す齋藤師長

「限られた面会時間を少しでも温かい家族の時間にしてほしい」と空間づくりの意義を話す齋藤師長

一方で、「バイタルサインの変化だけでなく小さな動きも見逃せません」と齋藤師長。入室するのは、命の危機にある重篤な小児患者ばかりです。コドモックルのPICUには、年間200例を超える小児患者が全道から搬送されてきます。術後患者がおよそ7割を占めますが、他院では治療困難な患者や、院内で病状が急変した内科的疾患の患者も受け入れます。

どのような事態にも対応できるよう、PICUでは、6床に対して、医師13人、看護師24人を配置。コドモックルに在籍する2人の小児集中治療医が、入室した全ての患者の状態を把握し、治療方針を決定します。小児集中治療医は、各診療科の医師の協力を求めるだけでなく、回復後の患者の成長を見据えた早期離床リハビリテーションや保護者のケアを行うために、理学療法士や臨床心理士とも連携。小児集中治療医が「指揮者」となり、まさにチーム医療で24時間全身管理にあたります。

手厚く配置された看護師が常に状態を観察。写真奥では、理学療法士が、退院後を見据え、早期離床リハビリテーションを行っている

手厚く配置された看護師が常に状態を観察。写真奥では、理学療法士が、退院後を見据え、早期離床リハビリテーションを行っている

広がらない整備、医療の「谷間」

小児重症患者に対するPICUの救命率の高さは明らかです。2008年の報告によると、PICUで処置された小児患者の実死亡率は、一般のICUと比べてわずか3分の1でした(注1)

一方、日本におけるPICUの整備は十分とは言えません。PICUが広く普及する欧州の先進国では、小児人口約4万人に対して1床が整備されています。日本で必要とされる病床数は500床ですが、実際に全国で整備されているのは345床のみ。6329床あるICUや、3394床あるNICUと比較しても、PICUの少なさがよくわかります(2020年の医療施設調査)。

全国の各集中治療室の施設数および病床数

PICUの乏しい整備状況は医療の「谷間」として、PICUが対象とする年齢の子どもの死亡率に現れています。日本は、先進7カ国(G7)の中で、新生児死亡率、乳児(1歳未満)死亡率がもっとも低い一方、1~4歳時死亡率では7カ国中3番目に高い数値を出しています。PICUの普及が叫ばれる理由はここにあります。

先進7カ国の各死亡率の比較

道内唯一の6床、搬送を阻む広大さ

北海道はさらに深刻です。道内の小児人口60万人に対して、PICUはコドモックルの6床のみ。なぜ、整備が進まないのでしょうか。

「地方では、小児科医自体が足りていない」と北海道保健福祉部。では、医療資源が集中する札幌においても整備が広がらないのはどうしてでしょうか。「採算性が低いんです」。コドモックルの大場淳一副センター長は、小児人口の減少に歯止めがかからない北海道で、高度な医療を担保する人材や機材を確保し、維持することの難しさを説きます。

患者の子どものケアをする担当の看護師(手前)と理学療法士(奥)。「家族のもとに元気に返してあげる」ことをチーム共通の想いとして、各々の技術向上に励んでいる

患者の子どものケアをする担当の看護師(手前)と理学療法士(奥)。「家族のもとに元気に返してあげる」ことをチーム共通の想いとして、各々の技術向上に励んでいる

PICUの新設が難しいのならば、今あるPICUへの重症患者の集約化が必須。しかし、北海道は、搬送においても大きな課題を抱えています。

「僕らが直面しているのは常に物理的な問題。北海道は大きすぎる」。コドモックルの小児集中治療医の酒井渉医師は、悔しさをにじませます。「北見から今すぐ運ばなければいけない患者さんがいました。冬の夜間だったため、ドクターヘリもメディカルウィング(小型ジェット機で患者を搬送する北海道の事業)も飛ばせなかった。救急車で到着したころには身体が冷えきっていた」。その患者さんは回復したものの、やりきれなさを感じたといいます。

送り出す側の地方の病院の人員不足が、搬送の問題に拍車をかけることもあるそうです。道内の地方で小児医療の経験があり、同じく小児集中治療医の市坂有基医師は、「地方の中核病院が搬送の相談を躊躇(ちゅうちょ)したり、搬送が決定しても同乗する医師がすぐ用意できなかったりして、送り出すまでに時間がかかることがある」といいます。「広い北海道にPICUはここにしかない。地方の中核病院との連携をもっと密にしていかないといけない」と訴えます。

それでも命に向き合う。「驚く速度で回復する子どもの生命力の強さ」

「僕らはどんなに働いてもいい。どんどん患者を受け入れたい」と話す酒井医師(左)と市坂医師(右)

「僕らはどんなに働いてもいい。どんどん患者を受け入れたい」と話す酒井医師(左)と市坂医師(右)

人材不足、採算性、広大さ-。さまざまな課題を抱える中で、何が小児集中治療医を支えるのでしょうか。

「子どもは、病状が急変するのも一瞬ですが、良くなる時も驚く速度で回復する。子どもの生命力の強さに触れることができるのが一番のやりがいです」。酒井医師の言葉に力がこもります。「命のやりとりは、恐怖感との戦いですが、やりがいがある」

無事退院し、数年後に会いに来てくれる患者さんもいます。「つらい治療を、あれだけ頑張った子がこんなに元気になって。こんなにうれしいことはないです」。市坂医師は、「元気に成長してくれるのが醍醐味です」と、優しく微笑みます。

懸命に命をつなごうとする子どもたちと、徹底的に寄り添う医療者たち。広大な北海道における小児医療「最後のとりで」の6床は、小児医療にかける熱い情熱と優しさに包まれています。

日本屈指のPICUを北海道に-。
吉沢亮さん主演の月9新ドラマ『PICU 小児集中治療室』がスタート

日本一広大な自然を相手に、医療用ジェット機を運用した日本屈指のPICUを作る-。

北海道を舞台に、今回紹介した「PICU」をテーマにしたメディカル・ヒューマンドラマ『PICU 小児集中治療室』(フジテレビ系/月曜21時)が、10月10日(月)にスタートしました。

本作では、吉沢亮さん演じる、駆け出しの小児科医が先輩医師と共に、どんな子どもでも受け入れられるPICUをつくるため、そして1秒でも早く搬送できる医療用ジェット機の運用を実現するために奔走。“子どもの命”をテーマに「生きるとは」「家族とは」という問いに真っ正面から向き合う感動作です。

PICUロゴ

生まれも育ちも北海道、不器用で純朴な“どさんこドクター”が主人公!

北海道で生まれ育ち、実家から通える病院であれば何科でも良かった主人公の志子田武四郎(しこた・たけしろう/吉沢亮)。勤務先の「丘珠病院」のPICU新設のため、小児集中治療のパイオニアである植野元(うえの・はじめ/安田顕)が、東京から赴任してきます。武四郎の小児科医人生を大きく変える植野との出会い。武四郎は、自分の非力さに打ちのめされ、傷つきながらも、幼い命を助けようと必死でもがきます。

子どもたちの生死を分ける過酷な職場・PICUで、不器用で純朴、泣き虫で未熟な“どさんこドクター”が直面する現実とは-。

まだまだ認知度の低いPICU。制作者や出演者、医療監修で携わる小児救急医が願うのは、日本にPICUが広がり、幼い命を守る体制が築かれること。この秋、物語を通じて、小児集中治療を専門とする医師や看護師、医療スタッフの想いに触れてみてはいかがでしょうか。

番組公式サイトはこちら

(注1)武井健吉,清水直樹,松本尚,八木貴典,小原崇一郎,阪井裕一,益子邦洋:小児重症患者の救命には小児集中治療施設への患者集約が必要である. 日救急医会誌 2008;19:201-7.

新ドラマ『PICU 小児集中治療室』

フジテレビ系にて2022年10月10日スタート
毎週月曜21:00~21:54放送

出演:吉沢亮、安田顕、生田絵梨花、高杉真宙、菅野莉央ほか
脚本:倉光泰子
医療監修:浮山越史(杏林大学病院)、渡邉佳子(杏林大学病院)、植田育也(埼玉県立小児医療センター)
プロデュース:金城綾香
演出:平野眞
制作・著作:フジテレビ

取材・文/佐々木麻美 撮影/國枝琢磨

2024
5/2
THU

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北海道外

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