雪も舗装もすいすい そりベビーカー 車輪備える「ハイブリッド」


降雪期の冬に乳幼児期の子を連れて外出する際に役立つ、そりを兼ねたベビーカーを輸入・販売したり、研究開発する取り組みが広がっています。雪道はそりで滑らせる一方、ロードヒーティングなど除雪された舗装路では車輪を使用するという「ハイブリッド」な機能を、いずれも備えています。さらなる改善の余地はありますが、子育て経験を重ねた母親たちの思いが試行錯誤の中で形になりました。

つらさ経験 5児の母が販売

仙台市の赤松恵子さん(40)は今冬、ロシア製のそりも兼ねるベビーカーの販売を、個人事業で始めました。ハンドル部を除く全長86センチ、幅46センチで、通常の路面では直径12センチのゴムタイヤ4個で走ります。足でアームを操作すると車輪が上に収納され、幅3センチの左右の金属製のそり2本が接地、雪面を滑らせることができます。重量は5.7キロで折りたため、公共交通機関で持ち運びすることも可能です。

赤松さんは0~12歳の5児の母で、2022年1月まで8年間は札幌で暮らしていました。子どもを乗せたプラスチック製のそりを親が引いて歩く光景が道内では一般的で、赤松さんにとっても日常的な一こまでした。0歳児を抱っこしながら3歳児をそりに乗せた時は、雪のない舗装路があるたびに3歳児を歩かせることになります。「子供の機嫌も悪くなる。つらくなって泣きたくなることが何度もありました」。このような悩みを解決したいとインターネットで探してロシアの「そりベビーカー」を知り、20年12月に輸入代行を利用して購入しました。期待以上の使い心地で、「北海道のスタンダードにしたい」と考えました。

道内外の約20社に提案書を送りましたが反応は鈍く、自ら使ったロシア製そりの製造企業と交渉しました。「そりかラボ」の名称での個人事業を立ち上げ、札幌の商社北方圏開発が代理店となり、今年1月に120台を輸入。ネットで販売を始めてから1カ月ほどで、札幌や旭川、苫小牧などから申し込みがあり、約20台が売れました。

「ソリカ」の商品名で1台2万9800円、1人で安定して座ることができる3歳以上が対象です。主に平らな雪道での使用を想定していて、凍結を伴うなどした凹凸の多い路面は苦手です。

ユーザーの1人で札幌市中央区の自営業佐藤良美さん(40)は、もうすぐ3歳の暖音(はのん)ちゃんを乗せています。15分ほど歩いて保育園に通っていて「歩く時に手をつないでくれないので、そりはすごく助かっている。冬の外出の選択が広がります」と話していました。

大学院生 3年かけて制作

佐山さんが制作したそり機能付きのベビーカー

札幌市立大大学院2年の佐山海音さん(24)は、雪道で利用できるベビーカーの研究に3年間取り組み、そりの機能も持つベビーカーを今月までに制作しました。金属パイプ、プラスチックなどを使い、直径約25センチの前輪、直径約30センチの後輪2輪で動きます。手と足でペダルを操作するとタイヤが上がり、乳幼児を乗せる半円型のかごの底面となるブリキ板が直接雪に接してそりになります。生後5カ月~2歳向けを想定しました。

市立大では以前、雪道で使えるベビーカーを考える授業がありました。大学に寄せられた母親の声を受けたもので、子供好きの佐山さんはそれを知って研究をスタート。冬の路面は気温などにより複雑に変化するため、雪と舗装の両方で使えることを目指すことにしました。研究で、市販のベビーカーのような小回りの良さや軽さを雪道で求めるのが難しいことが分かったといいます。「もし製品化する場合にはそれらが課題になると思いますが、技術が発達し、全て兼ね備えたベビーカーができることを願います」と話していました。

雪まつり会場で無料貸し出し中

「そりかラボ」は4日に開幕したさっぽろ雪まつり大通6丁目会場で、NPO法人「手と手」の協力で「ソリカ」5台を無料で貸し出しています。日本旅行南1条メディア販売センター(札幌市中央区南1西4)では、今月末まで1台を常設展示しています。ソリカへの問い合わせは、販売サイトのフォームから可能です。

取材・文/石橋治佳(北海道新聞記者)

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