男性育休、理想と現実 学生の6割が希望 22年度取得は2割 人材確保へ推進の企業も

自宅で家族との時間を過ごす阿部真也さん(右)。「子どもは1年間、毎日違う姿を見せてくれた」(伊丹恒撮影)

男性の育児休業の取得に対する大学生の意識と、道内企業での実際の取得率のギャップが目立ち始めた。民間企業の調査では、来春卒業する男子大学生の6割が、将来「育児休業を取って子育てしたい」と希望。これに対し、2022年度に道内で育休を取得した男性はわずか19.2%にとどまる。就職情報会社は「男性育休を進めることが採用増につながる」と分析しており、人材確保のため積極的に推進する道内企業も出始めた。

「将来のことを考え、休業取得の融通がききそうな会社を選んだ」。札幌市の不動産業に昨年4月に入社した松本祐介さん(23)にとって、育休が取得しやすいかどうかは、会社を選ぶ際の要素の一つだったという。「結婚して子どもが産まれたら、男性が育休を取りやすい企業の方がいい」

昨春、札幌市内のIT企業に就職した既婚の男性(24)も数年以内に育休を取りたいといい「育休取得率が高い企業の方が環境がいいはず。会社選びの際の重要な指標だった」と語る。

就職情報会社「マイナビ」が24年春卒業予定の大学生を対象に行ったライフスタイル調査によると、「育児休業を取って子育てしたい」と答えた男子学生の割合は61.3%。調査を始めた15年春の新卒生から20ポイント以上伸び、過去最高となった。「育休は当然の権利だと思うから」「育児に専念したいから」との理由がそれぞれ3割を占めた。

札幌市の公務員、阿部真也さん(39)は、第1子誕生に合わせて昨年6月から1年間育休を取った。「24時間一緒にいて、毎日少しずつ成長する姿を見られた。あの1年間だけの大切な経験だ」と振り返る。

妻の笑名さん(34)は出産後の体調が良くなく、真也さんは休業中、子どもの寝かしつけや沐浴(もくよく)、買い物などをほぼ一手に担った。笑名さんは「出産直後は心身共にぼろぼろ。夫と感情を共有し、いたわり合えた財産になった」と話す。

ただ、阿部さんのような例は道内では少数派と言える。22年度に道内の民間企業で育休を取った男性は19.2%。代替要員が確保できない(19%)、取得できる職場の雰囲気がない(16%)の理由が多かった。

実際、育休取得経験者らでつくる「パパ育休プロジェクト」(札幌市)の清原章生代表(38)は、新生児がいる父親から「職場で男が育休を取る必要があるのかと言われた」「過去に事例がないと渋られ諦めた」との悩みを聞くと話す。

国は昨年10月に制度を見直し、子どもが1歳になるまで最長1年間取れる育休を最大2回に分割して取得できるようにした。妻の出産後8週間以内に、最大4週間取得できる「産後パパ育休」も同月からスタート。短期間の育休を分割して複数回取れるようにし、より柔軟に育休を取れるようにした。

ギャップを逆手にとり、人材確保に取り組む企業も出てきた。札幌市のIT企業「インフィニットループ」は、育休取得を推進するため、社員数に余裕を持たせて採用。育休中から復帰後の働き方についてこまめな相談も行っている。過去3年間に子どもが産まれた全男性社員が産後パパ育休などを取得。人事担当者は「会社を選んでもらうには、将来の心配をせずに働ける待遇で社員を迎えるのが重要」と力を込める。

マイナビHRリサーチ統括部の石田力さんは、若い世代は会社ではなく自分のキャリアや生活を重視していると指摘。「男性育休は都会の大手ほど浸透しているが、地方企業はまだ進んでいない。男性育休の取得率は就職する会社を選ぶ際の判断材料の一つになっていると認識してほしい」と述べた。(武藤里美)

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