「ギフテッド・チルドレン」の特性や関わり方は? 判断基準や発達障害との違いを解説

「ギフテッド・チルドレン(以下、ギフテッド)」という言葉を聞いたことがあるでしょうか。生まれながらにして特定の分野での能力が非常に高い子どものことで、その特異な才能は早期教育で得られるものではありません。「優秀だから問題ない」と思われがちですが、実は「周囲から理解してもらえない」といった悩みを抱えていたり、中には発達障害を併せ持ち、生きづらさを感じている子どもたちも。不登校になるケースも多く、教育的な配慮が必要です。ギフテッドの特性や関わり方について、北海道教育大学旭川校の片桐正敏教授に話を聞きました。

教えてくれたのは

北海道教育大学旭川校
片桐正敏教授

かたぎり・まさとし 札幌市出身。北海道大学大学院教育学研究科博士後期課程修了。専門は、臨床発達心理学、発達認知神経科学、特別支援教育。基礎的な研究と並行して発達障害のある子やギフテッドの相談・支援活動も行っている。共著に「ギフテッドの個性を知り、伸ばす方法」(小学館)がある。

ギフテッドとは、どんな子ども?

まだ日本では広く知られていないギフテッド(Gifted=贈り物を意味するGiftが語源)。しばしば「凸凹」とも表現される彼らは、どのような特性を持った子どもたちで、どんなことに困っているのでしょうか。

ギフテッドの定義

幼少期から語彙(ごい)が豊富で、大人顔負けのおしゃべりをしたり、年齢では考えられないほど数学が得意で、何時間も没頭したりー。

言語、数理、科学、芸術、音楽、運動など1つ、または複数の分野で「特異な才能」が見られるギフテッド。彼らは、感覚が過敏でこだわりが強く、心が繊細などといった複雑な面もあることから、周囲の理解やサポートが必要とされています。

「ギフテッドとは医療的な診断名ではなく、教育的な配慮をするためのカテゴリーです。定義は曖昧で、概ねIQ(知能指数)130以上がひとつの目安ですが、個別のケースに合わせて多面的に評価することが大切です。ギフテッド教育が進んでいるアメリカでは幼児から高校生のうちの6.5%、370万人ほどの子どもたちが特別な教育プログラムを受けています」と片桐教授は説明します。日本に正確なデータはありませんが、割合として欧米と同じくらいのギフテッドが存在すると考えても良いでしょう。

どんなことに困っている?

ギフテッドは「天才」「高IQ」といった側面だけが注目されがちですが、秀でた才能ゆえに「周囲から理解されない」と感じている子や、中には極端に苦手な分野とのバランスが取れずに生きづらさに苦しむ子も多く、「凸凹」とも表現されます。

期待して入学したにも関わらず、同年代の友達と話が合わない、学校の騒音やにおいが苦手、既に知っていることの反復が苦痛、論理的に納得できない指示には従えないなど、学校生活にストレスを感じていることも少なくありません。

文部科学省は2023年度から、こうした特定分野に特異な才能のある子どもたちの支援に初めて乗り出します。「個別最適な学び」と「協働的な学び」を基本に、多様性を認め合いながら一人一人の才能を伸ばしていくとして、教員が理解を深めるための研修教材の開発や、子どもの関心に沿った授業作りなどの実証研究を進める方針です。

どうやって、ギフテッドかどうかを見極めるの?

「うちの子ってギフテッド?」と思ったら、まずはチェックリストを試してみましょう。同年齢の子どもと比べて極端に目立つかどうかが評価のポイントです。半数以上が当てはまるようなら、ギフテッドの特性のために生きづらさを抱えているかもしれません。それぞれの項目のポジティブな面(P)と、ネガティブな面(N)をまとめました。

チェックリスト

《 ギフテッドの子どもの特性 》

1.言語能力が高い

P:年齢相応以上の言語力があり、豊富な語彙で複雑な文章構成ができます。
N:同年齢の子と話が合わないことも多く、トラブルや孤立の原因に。親が言い負かされてしまうことも。

2.強い集中力で長時間没頭する

P:好きなことに異常なほどのめり込み、強い探求力があります。
N:一つのことに集中しすぎて話を聞いていないと思われたり、作業の切替が難しいことも。

3.感情がジェットコースター

P:感情が豊かで、好きなことに情熱を向けます。
N:
感情の起伏が激しく、コントロールが難しい時があり疲れてしまいます。

4.想像力が豊か

P:年齢相応以上の表現力で、大人がびっくりするような工作などをします。
N:
しょっちゅう想像力を膨らませていて、ぼーっとしていると思われがち。

5.感覚が偏っている

P:鋭い五感から情報を取り込み、想像力と組み合わせて豊かな表現をします。
N:
視覚や聴覚の敏感さが不快感として現れ、ストレスを溜め込みます。ちょっとした音や、蛍光灯、人ごみが苦手などの傾向も。

6.正義感が強い

P:理想論や正義感を持ち、正しいことを自分の信念でやり抜きます。
N:
ルール違反が許せず、相手にルールを押し付けてしまいます。学校では、先生の理不尽さに耐えられず不適応の原因になってしまうことも。

7.興味関心がはっきりしている

P:興味や関心のあるものについて、どんどんのめり込み、大人顔負けの知識を持ったり、作品を作り上げます。
N:興味や関心のないものはほとんどやる気を示しません。「みんながやっているから」という理由で何かをするのは理不尽で納得できないと感じます。

8.他者への配慮ができる

P:相手の気持ちや痛みが理解でき、気持ちに寄り添えます。
N:深読みしすぎて、人間関係に疲れてしまいます。学校では強いリーダーシップを発揮しますが、実はストレスを感じているため、自宅では大暴れといったことも。

9.完璧主義

P:妥協せず、徹底的にこだわってレベルの高い完璧なものを作ろうとします。
N:細部にこだわりすぎて、結果的に何も出来上がらないことも。柔軟な変更ができず、思い通りに行かないと癇癪を起こしてしまいます。

10.好奇心が強い

P:チャレンジ精神が旺盛で、何でもやりたがります。論理的な思考を好み、強い刺激を求めます。
N:熱しやすく冷めやすいため、衝動性が激しいと思われがち。習い事もあれこれやりたがり、はまれば集中しますが、思っていたものと違うとすぐ放り投げてしまいます。

ギフテッドと発達障害、どう違うの?

一見すると特性が似ているとも言われるギフテッドと発達障害ですが、どのような違いがあるのでしょうか? また、ギフテッドと発達障害を併せ持つ「2E」についても聞きました。

発達障害との違い

ギフテッドの特質は発達障害と似ている点も多く、誤診されるケースも少なくないのだそう。しかし片桐教授は、ギフテッドと発達障害は、分けて考えるべきだと言います。「ギフテッドを理解する助けとして“過度激動”という概念があります。多くの人が受け入れられる物事に過剰に反応してしまい、集団生活が困難になるのですが、その特徴は発達障害のいくつかの特徴と似ています」

例えばギフテッドの「知的好奇心が強く、興奮してじっとしていられない」という行動は、注意欠陥多動性障害(ADHD)の特徴と重なります。また、「強いこだわりを持って、周囲が見えないほど集中する」という特質は、アスペルガー症候群の特徴とも見られがち。

しかし「一側面を切り取るのではなく、1日の生活を通して子どもと向き合い、行動を観察して、ギフテッドの過度激動なのか、発達障害の特徴なのかなど、丁寧に見極めることが大切です」と片桐教授は話します。

「例えば発達障害の子は一貫してその特性が現れます。自閉スペクトラム症のある子は、人よりも物と関わることを好んで一人でいたり、ADHDの子は落ち着きがなく、どこにいてもずっと動き回ったりする。しかしギフテッドの子どもの場合は、こうした特性が、ある場面では顕著に現れたり、別の場面では全く見られなかったりと一貫しません。特に幼少期ではその辺りの違いが、見極めのポイントです」

ギフテッドと発達障害を併せ持つ「2E」

ギフテッドには、発達障害が併存している「2E(ツーイー)」タイプも存在します。発達障害のないギフテッドは、人間関係でのつまずきも少なく、行動上の問題も見られない場合があります。一方、2E型は「Twice Exceptional=2重に例外」を意味し、ある分野では突出した能力がありますが、苦手なことは極度に苦手です。

片桐教授は「発達障害を持っているギフテッドなのか、発達障害のないギフテッドなのかで支援の方法は異なります。発達障害があるなら、苦手分野に関しては特別支援教育の枠組みで、ある程度はサポートが可能です。しかし発達障害がない場合は、日本にはギフテッドに特化した支援システムがないのが現状。子どもの特質を理解して、学校側も可能な範囲で柔軟な配慮をして欲しい」と話しています。

アメリカのギフテッド教育と日本の現状

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ギフテッドを見極める指標の一つ「IQ」は、「WISC-IV」(ウィスク・フォー)という知能テストで調べるのが一般的。ギフテッド教育の先進国アメリカでは、知能テストに加えて、多面的な評価システムを用いて州ごとに独自のサポートをしています。例えば、SEM(Schoolwide Enrichment Model)という教育モデルでは『どの子にも伸ばすべき何かしらの才能がある』という理念のもと、子どもの状態に合わせて、3つの段階を柔軟に組み合わせたプログラムが成果を挙げているそうです。台湾やニュージーランドなども、アメリカを手本にギフテッド教育のプログラムを導入しています。

ギフテッド教育に関して手探り状態の日本ですが、家庭や学校でも出来ることはあると片桐教授は考えています。「親は、抱え込まずに学校側にかけ合ってください。教師は、例えば漢字の書き取りが簡単すぎて退屈と感じる子には、漢字の成り立ちを調べてみるように宿題を出すなど、できる範囲で向き合ってあげてほしい。得意分野に集中できる環境を整えたり、苦手な分野を克服できたら行動や成果を認めること。周囲の大人が子どもの行動をよく見て、本人の声に耳を傾けることが何より大切です」

道内では児童放課後デイサービスや、フリースクールに通うといった選択肢がある他、全国的には一般社団法人「ギフテッド応援隊」がさまざまな情報発信を行うなど、当事者や保護者がオンラインを通して繋がる仕組みも草の根で広がっています。

* * *

日本ではまだ広く知られていないギフテッド。苦手なことが大きな障壁にならないよう、同時に、得意分野を自由に伸ばせるよう、学びの環境を整えていくことが重要です。周囲の大人が、彼らの抱える「凸凹」を理解し、一人一人の特性や興味関心に応じた援助をすることが、サポートの第一歩といえそうです。

取材・文:猪飼佳奈子


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