職場に早めの相談が大切 「産後パパ育休」スタート(2)

写真はイメージ(プラナ / PIXTA)

出生(しゅっしょう)時育児休業(産後パパ育休)制度が10月に新設された背景には、女性に比べて男性の育休取得率が低い現状があります。道内は、中小企業が9割超(2016年)を占めており、21年度の男性の育休取得率は10.2%と、全国平均の13.97%に比べて低い状況です。男性の育休取得が広がる職場の取り組みを探り、育休経験者から心構えを聞きました。

「生後数カ月の子どもの成長はすごいので、間近で見たかった」。道職員の坂井健人さん(29)は札幌市内に、同僚である妻(30)と長男(1歳9カ月)、長女(1カ月)と暮らしています。

長男誕生の時は、道の育児休暇制度や年休などを合わせて約1カ月休みました。今年9月下旬に長女が生まれてからは、道の制度と年休に加えて育休も組み合わせ、11月末まで育児に専念する予定です。坂井さんは今回、産後パパ育休の取得は見送ったが、「年度末の繁忙期や重要な会議がある場合、一度復職して育休を分割して取得できる」と新制度を評価します。

実際に育休を取る場合、どんな準備が必要か、育休中の道職員坂井さんと、育休経験者のサツドラホールディングス(HD、札幌)の安部徳行さん(35)に聞きました=「産前・産後チェックシート」を参照=。育休制度について十分に調べて、家族と話し合い、計画を立てたら、早めに職場に相談することが大事と言います。

産前・産後チェックシート

坂井さんは、食事作りや掃除・洗濯、保育園の送り迎え、沐浴(もくよく)、寝かしつけを担当。「スムーズにできるよう事前に一通りの家事のやり方を学んでおいて」とアドバイスします。安部さんは「産後の女性の体は大きなダメージが残っているので、退院直後にサポートできる産後パパ育休制度は重要」と強調します。

男性の育児参加を支援するNPO法人ファザーリング・ジャパン理事の高祖常子さんは「家事や子育てを経験することで、段取り力やトラブル予測力、コミュニケーション能力などの技術がつき、仕事にも生かせる」と言います。雇用側にとっても「仕事を見直す機会になり効率化につなげられる」と指摘します。

高祖常子さん

高祖常子さん

道人事課によると、男性道職員の育休取得率は17年度の1.3%から21年度は23.8%に上がりました。改正育児・介護休業法で、雇用主側に育休制度の周知や取得の意思確認が義務づけられた今年4月に先駆け、20年度から、子どもが生まれる予定の男性職員に管理職が面談を実施。育休を取得しやすいよう「育児計画」を作る取り組みが奏功したと言います。産後パパ育休についても「育休取得の選択肢が増え、男性の育休取得率向上につながるのでは」と期待しています。

民間の一部でも取り組みは進んでいます。サツドラHDは男性の育休取得率が「10年前に比べて倍増した」と言います。16年に、産後の休暇取得を促す独自の制度を作っており、「育休を取るためのハードルは低い」と言います。産後パパ育休制度についても、問い合わせが複数寄せられ、同社は「働きやすい環境は社員の定着につながる。他社と違いを強調でき、魅力的な人材も集まる。育休にはメリットしかない」と言い切ります。

取得率低い道内企業 助成金周知で環境整備促す

一方、課題も残っています。産後パパ育休制度について、対応ができている道内の中小企業は43.7%と、全国平均(49.1%)を下回っていることが今夏、日本商工会議所(東京)の調査でわかりました。制度開始を前に、社内規定の整備や従業員への周知などの状況を尋ねたところ、38.0%が「内容は把握しているが対応できていない」、17.6%は「内容も把握していない」と答えました。育休取得推進の課題として、49.3%が「専門業務や、属人的な業務を担う社員の代替要員がいない」を挙げ、40.1%が「採用難や資金難で育休時の代替要員を外部から確保できない」としました。

全国と道内の育休取得率

道内の中小企業の「産後パパ育休」対応状況

道雇用労政課によると、道内の育休取得率が低いのは、環境整備が追いつかない中小企業が多いのが理由と言います。本年度から、男性の育休取得で、中小企業の雇用主に支給される助成金などのメリットを伝えるDM(ダイレクトメール)を企業に送っているほか、育休取得を促進する企業のセミナー開催に社会保険労務士らを派遣します。

取材・文/田口谷優子(北海道新聞記者)

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