連載コラム「晴れときどき子育て日和」最終回

過去に刻んだ「点」は消えない コロナ禍に見えた一本の「線」

「コロナ禍のさなかの子育て、書きませんか?」

このコラムの依頼をいただいたのが、今からちょうど1年前。自粛生活が始まって半年を過ぎた頃でした。

当時の私は読み聞かせユニット「enets」の活動を自粛し、再開のめども立たないまま、完全な専業主婦として暮らしていました。

コロナ禍という特殊な世界を生きながら、人や社会との関わりを抑制された日々は、ある意味で、ものすごく平穏だったことを、今もよく覚えています。朝、心地の良い日差しの中で洗濯物を干しながら「こんな風に家族のために生きて、人生が過ぎていくのかなぁ…」と漠然と考えていました。小さなベランダが、私の生きる場所だったのです。

けれど、月に1回、日々の子育てを書き留める感覚でコラムを書き始めると、日常に色彩が戻ってきました。子どもの何気ないひと言や、私の何気ない学びが文字になり、伝わり、大切な人たちと温度のある言葉を交換できるようになりました。家族のために過ぎていた日々が、「私自身の確かな経験」として「点」となり、刻まれ始めたのです。勇気を出して、女性の権利について書いた原稿の荒削りな叫びはその後、webライターとしての仕事に繋がりました。

そして今、少しずつではありますが、自分自身でテーマを見つけ、取材をして、試行錯誤しながら原稿を仕上げ、時に厳しい他者の目に触れながら、物事を伝えるというプロセスの中に身を置けるようになりました。誰かの人生に触れ、社会の問題と対峙するということは、時に「平穏な」生活ペースを乱すこともあり、厳しいしかめっ面でパソコンの画面と向き合っていることもあります。

けれど、しかめっ面をしながら、心の中には大きな喜びがあります。だって、私自身の情熱に再び気づくことができたから。

高校で弁論部に入り、「伝える」ということに夢中になって原稿を仕上げ、その情熱のままにテレビ局に入社した…それははるか遠い過去に刻んだ「点」だと思っていたけれど、私の本質は変わっていませんでした。人生の「点」と「点」は確かにつながっていくのだと気づくことができたのです。

きっと誰もが同じだと思いますが、順風満帆な人生などなく、私自身も、病気や、移住や、挫折や、子育てや、小さなベランダにしか生きられない時間があって…。でもそんな経験を経た今だからこそ、伝えられるテーマもある気がするのです。

親友との交換日記ブログを読み返すと、26歳の私はこんなことを書き記していました。

「私は、自分が愛する『伝える』ことを続けていきたい、だけ。その信念はきっと、10年経っても変わってない」

きっと、あと10年経っても変わらない、この信念を大切に。今日ももがきながら「伝える」を、続けていきたいと思います。

教えてくれたひと

谷岡碧さん

たにおか・みどり/2012年にテレビ東京を退社後、タイへ移住してNGOで勤務。17年に帰国後は札幌へ住み、幼なじみと読み聞かせユニット「エネッツ」を結成して活動中。夫と小学1年生の長男、2歳の長女と暮らす。札幌市出身、36歳。

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