眠れぬ母親、メディアが支えに ラジオ「ママ☆深夜便」 / LINE「オンライン夜泣き小屋」

「ママ☆深夜便」を担当する村上里和さん。自身も1男1女の母です(NHK提供)

「ママ☆深夜便」を担当する村上里和さん。自身も1男1女の母です(NHK提供)

授乳や夜泣きで眠れない子育て世代を応援するメディアが、反響を呼んでいます。NHKが月1度、深夜に放送するラジオ番組「ママ☆深夜便」と、SNS上で母親たちがつぶやく「オンライン夜泣き小屋」。ともに子育て中の母親が企画。夜を徹し育児に奮闘する母親たちがメディアを介し悩みを打ち明け合い、共感の輪が広がっています。

悩み相談、聞いて共感 NHKラジオ

「真夜中の子育て応援団『ママ☆深夜便』。今夜もつながりましょう」。11月26日午後11時すぎ、NHK放送センター(東京・渋谷)のスタジオで、札幌育ちでチーフアナウンサーの村上里和さんが語り出しました。

「赤ちゃんがぐずって抱くと、母に『抱き癖がつく。泣かせておけばいい』と注意されます」。子育て世代のそんな悩みに、ゲストの専門家が「価値観は人それぞれ。遠慮せずに抱いてあげて」などと丁寧に助言。祖父母世代からの育児への意見も紹介し、絵本の読み聞かせや音楽を交え朝5時まで生放送が続きました。

ラジオ第1とFMの人気番組「ラジオ深夜便」特別編として、2018~19年に4回放送した反響が大きく、今年4月から毎月第4木曜日(午後11時5分~翌午前5時)に拡大されました。

深夜便アンカーの1人で、1男1女の母でもある村上さんが企画しました。深夜便のもともとのターゲットはシニア層ですが、20代女性から「孤独な気持ちで授乳をしていた時、ラジオの声に励まされ涙があふれました」という便りが届いたのがきっかけでした。

「かつて私も、乳児と過ごす夜は孤独でした。夜中に、おむつからあふれた便で汚れたシーツを洗い、ボロボロに疲れた自分の姿を思い出しました」。村上さんがそう振り返ります。

「2時間おきの授乳で眠れず、ストレスで下痢と腹痛が続きます」。番組に、母親から切迫した悩みが届いた時は、助産師からの「育児支援の窓口に相談を」という助言を放送しました。

2児を抱える江別市の女性(29)は「子どもを寝かせつけ、やっと掃除や洗濯を始められるのが午後11時ごろ。家事をしながらラジオでほかのママたちの悩みを聞くと『私も同じ』と共感し、仲間がいると知るだけで元気をもらう」と次回の放送を心待ちにしています。

チャットで励まし合い LINE

「オンライン夜泣き小屋」は、LINEのオープンチャット機能を活用した、母親たちのつぶやきの場。「やっと寝た」「今日は早かったね」などと、夜泣きの状況を報告し励まし合うつぶやきが、一晩で200件近く投稿されます。参加者は最大950人。宮城県在住の漫画家、かねもとさんが昨年8月に開設しました。

かねもとさんは、小学2年の男児と幼稚園年少の女児の母。下の子の夜泣きが激しかった17年、「夜泣きに悩む母親たちが駆け込む『夜泣き小屋』があればいいのに…」という思いを漫画にし、ツイッター(アカウントは@kanemotonomukuu)に投稿しました。漫画の中の夜泣き小屋に集まる母親たちは、パジャマ姿で赤ちゃんを抱き、みんな眠い目。赤ちゃんが寝そうになると隣の寝室で一休みしますが、夜泣きが始まると、眠れぬ仲間たちが過ごす部屋に戻り、互いに励まし合います。

LINE開設のきっかけとなった漫画

LINE開設のきっかけとなった漫画(かねもとさん提供)

そんな漫画が大きな反響を呼び、20年12月5日までに3万8千回「いいね」され、2万8千回リツイートされました。空想の夜泣き小屋への多くの人の共感が、オンライン夜泣き小屋開設へと、かねもとさんを動かしました。

かねもとさんは「チャットに参加した人が、ここがあって助かった、声を掛けてもらえてうれしかったという気持ちを、今後の育児や、育児の先輩として誰かを支えることにつなげてくれたらうれしい」と話します。

ほぼ半数が睡眠不足 うつ傾向になりがち

厚生労働省による産後の母親への調査(2018年)では、「十分な睡眠がとれない」ことに不安や負担を感じる母親が産後2週未満で54%、産後2~8週で49%と、ほぼ半数を占めました。

子育て支援活動に詳しい恵泉女学園大学の大日向雅美学長(発達心理学)は、睡眠不足の親はうつ傾向になりがちで「深刻化すると乳児の虐待につながる」と指摘します。今回取り上げたラジオやSNSの取り組みは「親の孤立とストレス解消に有効な策」と評価します。

一方で、親の疲労の解消には乳幼児の一時預かりなどの支援策が欠かせず、「行政や地域は、夜の育児も手助けできる子育て支援の専門家を養成することが、虐待を防ぐためにも必要」と強調します。

取材・文/佐竹直子(北海道新聞記者)

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