森で遊ぶ、全身で学ぶ 注目される恵庭幼稚園の「自然保育」 学ぶ土台づくり、危険知る力も

「北清の森」で小屋のある広場から深雪をこいで斜面を登る恵庭幼稚園の子どもたち(小室泰規撮影)

「北清の森」で小屋のある広場から深雪をこいで斜面を登る恵庭幼稚園の子どもたち(小室泰規撮影)

環境保護やさまざまな体験を通じて生きる力を育む観点から、自然体験を重視する「自然保育」が注目されています。道内でも取り組む幼稚園や保育園が少なくありません。恵庭幼稚園(恵庭市)などを運営する学校法人リズム学園は、学びに適した森を地域と共に整備運営し、各地から視察が相次いでいます。昨秋には日本自然保育学会の研究大会が道内で開かれ、同園が見学会場となりました。

同学会によると「自然保育」は、自然環境や地域資源を活用した体験活動を重視する保育や幼児教育、子育て支援を指します。実施団体を認証する自治体もあります。

同大会実行委員長で札幌大谷大短期大学部保育科の田中住幸准教授によると、道内では1990年代から自然学校などの体験型環境教育が盛んだった土壌があり、近年、幼保施設で導入が増えているそうです。森を購入するなど大規模な活動や地域との連携が特徴だと言います。

斜面の雪かき分け 尻滑りに歓声
学ぶ土台づくり、危険知る力も

恵庭幼稚園の自然体験は、街中にある園舎からバスで15分の「北清の森」で週1、2回行います。森の整備や一般向けの体験活動も担う市民団体「恵庭ふるさと100年の森」が引率します。

1月中旬、大雪の翌日も体験が行われました。「雪が積もって川と岸の境目が見えないから近づかないでね。落ちてぬれたら、ずっとたき火のそばにいないといけないよね」。年長児約60人にスタッフが注意を促しました。

森にはくるぶしほどの深さの小川が流れ、ツリーハウスやたき火ができるあずまやがあります。「どうして川は凍らないのかな? 氷に比べると水が温かいんだよ」。園児は自然の仕組みを学びながら慎重に一本橋を渡り、腰まである雪をかき分けて急斜面を10メートルほど登ります。何人かお尻でずり降りると滑りが良くなり、はしゃぐ声が響きました。

自然体験で尻滑りを楽しむ恵庭幼稚園の子どもたち(小室泰規撮影)

自然体験で尻滑りを楽しむ恵庭幼稚園の子どもたち(小室泰規撮影)

学ぶのは楽しいことだけではありません。川口絢末(あやみ)ちゃん(6)は何度も滑って満足げでしたが「山は登るのが大変だし、夏はクモがいるのがいや。お庭にはあんまりいないのに」。森ではダニ対策で夏も長袖長ズボンが欠かせません。自然の中だからこその不快さや怖さを感じ、危険を察知する力を身につけると井内聖(せい)学園長は話します。ただし、折れて刺さりそうな木は抜くなど、大きな事故につながる危険は取り除いてあります。

また、恵庭幼稚園の自然体験の狙いの一つに学びの土台づくりがあります。てこの原理や食物連鎖など自然界のあらゆることを体で感じておくと、就学後に知識として整理され学問としての学びにつながるのだそうです。

そうした保育を目指してかつて園庭に木を植えたり池を作って魚を捕まえてさばいたりしましたが、やはり本物の自然を体験させたいと12年ほど前、保護者の企業の土地を借りて整備を始めました。街中の園とあって保護者の心配の声が大きく、野生動物の危険性を調査して、体験活動を「100年の森」と共に行うことで理解を得ました。

自然体験への入り口 地域性も考慮

井内学園長は地域性に合った自然保育が必要とも指摘します。例えば北清の森には木に登る足場やブランコがありますが、同学園が胆振管内安平町と連携して運営する、同町内のはやきた子ども園の森では、遊具をすべて取り去りました。街中に住む親子には森に親しむ仕掛けがあった方が足を踏み入れやすいのですが、森に慣れている安平町では遊具がない方が森そのものの面白さに目が向くとの考えです。「自然体験への入り口やプロセスは子どもや保護者によって異なる」と言います。

北海道で学会 保育の現場で研究を

日本自然保育学会の研究大会で講演する道教大岩見沢校の能條歩教授

研究大会では北海道教育大学岩見沢校の能條歩教授(地球環境科学)が講演しました。学校教諭は実践して研究論文を書く人もいるが保育者は少ないとし、研究、発表を通じて「蓄積をする中からもっと素晴らしい教育課程が生まれるのではないか」と話しました。また、苫小牧市と同管内厚真町で親子向けの活動などを行うNPO法人「森のこころね」の松山道子代表理事も登壇。クラウドファンディングによる森の購入や、0歳児から土に親しむ様子を紹介しました。

取材・文/山田芳祥子(北海道新聞記者)

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