連載コラム「あそぶ→そだつ」第25回

【あそぶ→そだつ】けん玉上達で達成感

今年1月、札幌市内の認定こども園で6歳の男児が、「めざせ! けんだまで『もしかめ』1000かい!」と書かれた表に、うれしそうにシールを貼っていました。「もしかめ(もしもしかめよ)」は、玉を大皿と中皿に交互に移動させる技で、連続444回までできたそうです。

私は男児がけん玉で遊ぶ姿をこれまで何度か目にしてきました。昨年の8月には、玉の穴にけん先を入れる「とめけん」に何度も挑戦していました。

しかし、何度やってもうまくいかず、男児は疲れた右手を癒やすようにしばらく手首を振っていました。その表情や姿は、悔しくて仕方がない自身の気持ちを落ち着かせているようでした。

気持ちを整え再チャレンジすること4回、ようやく成功しました。満足そうな男児の笑顔は、達成感でいっぱいでした。おそらくこの日だけでなく、何度も何日も練習していたはずです。遊びは真剣です。

1カ月後の9月、男児はかなり上達し、「世界一周」という技に取り組んでいました。けん玉には検定があり、級が上がるごとに技が難しくなります。「とめけん」は6級で出てくる技ですが、小皿、大皿、中皿、けん先と連続して受ける「世界一周」は2級で出てくる技です。

遊びには、目標に向かって継続的に取り組んでいく種類があります。自分で見つけた目標に、簡単ではないけれど、根気よく取り組み、悔しさを乗り越え、達成感や充実感を味わえることをこの男児は体験していました。

技の上達や「もしかめ」を長く続けることだけが良いのではありません。コツコツと努力していくプロセスに価値があるのです。男児は卒園を前にした3月、さらに1級の技、中皿を玉で受け止める「灯台」に挑戦していたようです。目標に向かって真剣に取り組んだ体験は、4月からの小学校生活でも、きっと役に立つでしょう。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

2024
5/1
WED

Area

北海道外

その他