共働き家庭が直面する「小1の壁」とは? 原因と対策を知って親子で乗り越えよう

もうすぐ入学シーズン。これから小学校に上がる子どものいる共働きの家庭では、「小1の壁」に直面し、不安や悩みを抱いている保護者も多いかもしれません。小1の壁とは何なのか、原因や問題点、どうやって乗り越えたらいいのかなど、心構えと対策を子育てアドバイザーの高祖常子さんに聞きました。

教えてくれたのは

高祖常子さん

子育てアドバイザー/キャリアコンサルタント

こうそ・ときこ 東京都生まれ。短大卒業後、リクルートで10年間、情報誌の編集に携わったのち、2005年から19年まで、育児情報誌「miku」編集長として活躍。認定NPO法人児童虐待防止全国ネットワーク理事ほか、国や行政の委員を歴任。著書に『感情的にならない子育て』(かんき出版)など。2男1女の母。

小1の壁とは?

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主に共働きやシングルの家庭で、子どもを保育園に預けていた頃に比べ、仕事と家事・育児の両立が、小学校に通い始めた途端に難しくなることを「小1の壁」と言います。

保育園では早朝保育や延長保育があるところも多く、朝、子どもを保育園に預けてから出勤したり、夕方仕事を終えてから、また急な残業があっても、ある程度遅い時間にお迎えに行くことができました。

しかし、小学校は保育園よりも登校時間が遅かったり、学童保育の預かり時間が短かったりと、それまでのサイクルでは生活が上手く回らなくなる場合があります。小学1年生は保育園の頃より成長しているものの、まだまだ安全面からも精神面からも1人での留守番は心配な年齢。「構えすぎて不安になる必要はありませんが、家庭の事情を整理して、対策を調べておくことが大切です」と高祖さんは話しています。

小1の壁に悩む親たち〜原因と問題は〜

「小1の壁」はなぜ起こるのでしょう? 小1の壁によって、親たちはどんなことに悩んでいるのか、高祖さんに聞きました。

なぜ「小1の壁」が起こるのか

1日の流れを比べるとわかるように、小学校に入ると、保育園時代とは生活のサイクルが変わります。変化としては大きく3つ挙げられ、「①小学校の方が保育園よりも子どもを預けられる時間が短くなること、②学童保育の閉所時間が保育園よりも早いこと、③ケースバイケースですが、職場での時短勤務が使えなくなる場合もあります」と高祖さんは説明します。

1日の流れ

小学1年生の子どもを預けられる時間は、小学校と学童で過ごす時間を合わせても、保育園で1日を過ごしていた時間よりも短くなります。多くの保育園は開所時間が7時で、預けられるのは原則1日8時間ですが、親の労働条件によっては1日最大11時間まで利用可能。延長保育の利用もできます。ところが小学1年生は、8時〜8時半に登校し、午後2時〜3時には下校。公的学童も午後6時には閉所するところが多く(地域によっては午後7時まで)、それまでと同じようには働けないケースも。

また、子どもが未就学の場合に時短勤務を認めている会社も多く、小学校入学とともにフルタイムになることも。親にとっては、キャリア実現のために「もっと働きたい」という気持ちが出てくる時期でもあると高祖さんは言います。そのため、仕事と家事・育児の狭間で悩み、障壁となってしまうのです。

「小1の壁」で親が悩むポイントは?

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高祖さんのところに寄せられる相談の中でも多いのは、「登下校時間に見守ってあげられないこと」だそう。朝、親が子どもよりも早く出勤して忘れ物はしないか、きちんと鍵をかけて出かけられるか、学童保育から帰宅した時に、親がまだ帰っていない場合は1人で留守番ができるのか−。悩みのタネは尽きません。

また、年間を通じて運動会や学習発表会などの学校行事やPTA、参観日など小学校では親の出番も少なくないため、事前に職場との調整が必要に。夏休みや冬休みなどの長期休暇や、土日に学校行事があった場合の代休では、子どもが学童保育で食べるお弁当作りもあります。さらに、保育園時代にはなかった「宿題を見る」というミッションもあります。

加えて、親の仕事面で、不利になってしまうケースがあると高祖さんは話します。「学童保育に合わせて時短勤務を選んだ場合、仕事を思い通りに進められなかったり、希望する仕事を任せてもらえず涙を飲むといった場合も。また、夜を家事と育児の時間に当てれば、「いざという時の急な対応」が求められる管理職への昇進は諦めざるを得ないなど、フルタイム勤務の人との間に差ができてしまうこともあります。能力があっても、家事・育児との両立の難しさからキャリアを断念せざるを得ないことも多く、そのほとんどは女性であるのが現状です」。

小1の壁を乗り越えるための3つの対策

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どのようにして「小1の壁」を乗り越えたらいいのでしょうか? 仕事と育児の両面から、高祖さんに対策を聞きました。

① 働き方を見直す

可能な限り在宅勤務を選択する、不要な残業はしないなど働き方を見直すことが第一歩。

「大切なのは職場とのコミュニケーションです。朝15分だけ遅れて出社したいとか、学校の行事は早めに伝えて休みをもらうなど、まずは相談すること。こちら側の要望を伝えることで、企業がより働きやすい場に変わるためのきっかけになるかもしれない」と高祖さんは言います。もちろん「ワーママ」だけでなく、夫婦ともに協力しあってやりくりすることが大切です。

② 学童や地域のサービスを活用する

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学童保育や地域の互助事業「ファミリーサポート」など、家庭の事情に合わせて組み合わせて利用することができます。自治体によってサービスの詳細がさまざまなので、まずは情報収集してみましょう。

《 学童保育 》

学童保育には大きく分けて、公的な「放課後子ども教室」「放課後児童クラブ」と、「民間学童保育」の3種類があります。

放課後子ども教室

文部科学省の事業で、すべての子どもたちの安全安心な放課後の活動場所とされています。基本的には平日のみ、午後5時までのところが多いですが、自治体によって土曜日や長期休み期間に開設している場合もあります。スタッフは地域のボランティアが中心で、ほとんどが無料で利用できます。

放課後児童クラブ

厚生労働省の事業で、保護者が就労していることが利用条件です。平日と土曜日の午後6時〜7時まで開設され、専任の指導員が子どもを預かってくれます。利用する時間帯によって、有料となる場合もあります。

民間学童保育

送迎があったり、英会話やスポーツなどの習い事ができるなど、特色あるプログラムが豊富です。預かってもらえる時間も、午後7時くらいが多いようですが、中には午後10時頃までという施設もあります。料金設定は施設によってさまざまで、月々1万円〜7万円ほどと公的学童保育より高めです。

《 ファミリーサポート 》

子育ての援助を受けたい人(依頼会員)と援助したい人(提供会員)が会員組織をつくり、地域や会員相互で子育て家庭を支援する仕組みをファミリーサポート事業といいます。

習い事への送迎や、学童にお迎えして自宅で預かってもらうなど、要望を伝えるとさまざまな形での支援が受けられます。地域によって価格は異なりますが、基本的には安価で利用できます。登録方法や利用料金など、詳細は各自治体へ問い合わせを。

③夫婦・親同士でコミュニケーションをとる

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家庭では、夫婦でよく話し合うことが大切です。「何に対して不安なのかを明確にし、それに対してどう対処するかを話し合っておくことや、家族全員の予定が把握できるスケジュール管理アプリを共有することなどをお勧めしています。夫はどうせ忙しい、と決めつけないでコミュニケーションを取りましょう」と高祖さん。

学校の緊急連絡先の1番目を父親にすることも推奨しているとか。「誰よりも先に駆けつけるから“ヒーロー登録”と呼んでいます。例えば子どもの発熱連絡が学校から入ったとき、実際には仕事で動けなかったとしても、“体調が悪い”という情報が共有できれば、残業をしないで帰るという選択も可能になります。お母さんだけが頑張る時代じゃありません」。

また、親同士がコミュニケーションを取って、協力し合うこともできます。「朝の出勤時間が子どもより早くなる場合は、近所の友達に待ち合わせて登校してもらうよう頼むなど、相談してみるといいですよ。断られるのが怖いという人もいますが、ダメならダメで、その家庭の事情がたまたま合わなかっただけと割り切って」とのアドバイスも。わが家だけで頑張らないことがポイントです。

多彩なプログラムに注目、道内の学童事情

ひとくちに「学童保育」といっても、英語、プログラミング、書道にスポーツとさまざまな習い事を取り入れる学童や、地域とのつながりを通して子どもの成長をサポートする学童など選択肢はさまざま。

札幌など道内のトレンドを調べたところ、放課後の時間に、自然と英会話が身につく学童が人気のようです。全国で事業を展開する「Kids Duo」は、道内では札幌と旭川に5校あり、放課後をオールイングリッシュの環境で過ごすことができます。ネイティブと日本人のスタッフが常駐し、音楽や運動、アート&クラフトなどさまざまなプログラムを楽しめます。小学校からの巡回送迎もあり、入退室を保護者にメールでお知らせ。延長預かりも午後8時半まで可能です。

人や自然との触れ合いを大切に活動する学童も好評です。NPO法人E-LINKが運営する「アドベンチャークラブ札幌」は、子どもたちと街歩きをしたり、関わる大人が遊びに来てくれたりするなど、地域との関わりを通して子どもが社会とつながれる、放課後の居場所を提供。延長は午後8時まで。

また、豊富なプログラムから好きなものを選べるところもあります。「札幌YMCAチャイルドケアアフタースクール」は、水泳、ダンスやクライミングなどのスポーツ、英会話、書道やプログラミングなど豊富なプログラムから、希望のクラスを選んで参加できます。また、夏休みにはキャンプ、冬休みにはスキーなどといった特別プログラムも開催されるそうです。

地域によっては選択肢が少ないところもあります。まずは、住んでいる地域の自治体の情報を調べて、家族で相談してみましょう。

正しく知って準備すれば怖くない!
家族で楽しく工夫しながら乗り越えよう

「小1の“壁”」というと、果てしなく高い壁を乗り越えなくてなならない不安に駆られるかもしれませんが、周囲とコミュニケーションを取り、利用できるサポートを調べて準備しておけば大丈夫。高祖さんは「これを機に、我が家はどうするのかを話し合って、楽しく工夫していきましょう。決めた通りに行かなくても、また居心地の良い方を選んで方向転換すればいいのですから」と提案しています。

子どもは日々成長します。数年後には、留守番もできるし、お友達との約束もできて世界が広がっていきます。肩の力を抜いて、今、できることからやってみましょう。


取材・文:猪飼佳奈子 グラフィック:TOMO AND JERRIE 画像素材:PIXTA

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