「夫婦一緒に」広がって 「産後パパ育休」スタート(1)

写真はイメージ(HIME&HINA / PIXTA)

育児・介護休業法の改正に伴い、10月から新たに「出生(しゅっしょう)時育児休業」(産後パパ育休)制度が始まりました。男性の育児休業の取得率向上が見込まれ、育休を分割して取れるなど、仕事や家庭の事情に合わせて利用しやすくなりました。専門家は「子育ては女性の仕事という意識が変わるきっかけになれば」と期待しています。新しい制度の仕組みと、夫婦の現状、雇用側の取り組みを2回に分けて伝えます。

「妻を支え、一緒に育てたい」

「出産は一生に1度あるかないか。妻を支え、一緒に育てたい」。サッポロドラッグストアー(札幌)で働く札幌市在住の石岡健太さん(28)は12月初旬から、第1子誕生に合わせ産後パパ育休を取得する予定です。出産予定日から2週間の産後パパ育休を取得後、新制度の特色である分割取得を利用していったん復職。その後、さらに2週間の産後パパ育休を取る考えです。年末の繁忙期のため、復職すると職場も助かるといいます。

最大4週間、柔軟に取りやすく

国は、2025年までに男性の育休取得率30%を目標に掲げていますが、21年度の民間企業の男性の育休取得率は13.97%にとどまります。新制度は、取得率向上に結びつくと期待されています。

この産後パパ育休制度は、産後8週間以内に最大4週間(28日間)の育児休業を取れ、分割して2回取得できます。申請は2週間前までにすればよいことになっています。

産後パパ育休と育児休業制度のポイント

また、労使が合意すれば、契約上の労働日・労働時間の半分を上限に、出社やテレワークが可能になります。例えば、週に5日勤務し、1日8時間働く労働者が2週間の産後パパ育休を取る場合、就業日の上限は5日、就業時間の上限は40時間となります。

育休は夫婦ともに分割取得が可能

これまでの育休も10月から、夫婦ともに分割して2回取得できるようになりました。育休対象は原則1歳までで、保育所に入所できなかったり、離婚したりなどの事情がある場合は2歳まで取れるのは法改正前と変わりません。ただ、開始のタイミングが以前は1歳または1歳6カ月に限定されていましたが、より柔軟に決められます。職場の繁忙期に合わせるなど、夫婦が交代しながら育休を取れるようになりました

育休制度・産後パパ育休制度は、共働きに限らず、配偶者が専業主婦(夫)でも利用できます。日雇い労働を除く派遣社員や契約社員、パート従業員など有期雇用労働者も、労働契約期間などの要件を満たせば取得可能です。

収入減への不安が取得の壁に

収入の減少に対する不安は、育休取得の大きな壁となっています。厚生労働省の20年度の調査によると、正社員の男性が育休を利用しなかった理由について、「収入を減らしたくなかった」が41.4%を占めました。

産後パパ育休を含め、育休中は180日までは賃金の67%、180日超は50%が雇用保険から給付されます。育休中は厚生年金や健康保険などの社会保険料が免除になることから、厚労省は「企業の制度や個人の給与で異なるが、社会保険料免除と合わせると、180日までは手取り収入の約8割が得られるという計算もできる」とアピールします。

制度浸透で女性の雇用継続へ

制度浸透のカギは、女性に育児の負担が偏りがちな現状を変えられるかどうかです。21年に国立社会保障・人口問題研究所が実施した出生動向基本調査によると、仕事をしながら第1子を出産した女性のうち、15~19年では約3割の女性が出産を機に退職しました。

また、21年の総務省の社会生活基本調査によると、6歳未満の子どもがいる夫が、家事・育児に携わる時間は1日当たり2時間弱。「国によっては3時間を超える。日本は国際的にみても低水準」(厚労省)といいます。

厚労省職業生活両立課は「男性が、子どもの出産直後から主体的に育児や家事をし、その後も育児などを分担することは女性の雇用継続などにつながる」と期待しています。

北大大学院・安部由起子教授に聞く
「雇用主側は丁寧に説明を」

今年4月からは、雇用主側が対象者に制度の周知や育休取得の意思確認をするよう義務付けられました。国は十分な環境整備をして制度の浸透を図る構えです。

北大大学院経済学研究院教授で労働経済学が専門の安部由起子さんは、男性が育休取得をためらう要因に、休業中の所得や、その後の人事評価での不安があると指摘します。

安部さんは「雇用主側は、丁寧に仕組みを説明し、休業中の所得を個別に示したり、人事評価がどうなるかを説明したりすれば、男性の育休取得を後押しできるのでは」と話します。

産後パパ育休については「子育てを男女が担う流れにつながる」と期待。「育休を取った男性は、のちによい経験だったと肯定的な評価をしている場合が多い」と育児参加を促しています。

取材・文/田口谷優子(北海道新聞記者)

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