人の気持ちや光、音にとても敏感な子ども「HSC」の理解者増えて

「とても敏感な子ども」HSCについて話す佐藤理佳さん(左)と、自身の過敏さに苦しんだ経験がある結子さん

人の気持ちや環境の変化に敏感で共感力が高い一方で、光や音などの刺激が要因で心身の調子を崩してしまう「とても敏感な子ども」(HSC)という気質をご存じでしょうか。学校などへの適応に悩む子どもに寄り添う道内の親や医師らは、コロナ下でHSCはさらに大きなストレスに直面していると指摘し、「少しでも多くの人にHSCを理解してほしい」と呼びかけています。

コロナ下、より厳しい状況に/治療ではなく養生が必要

「休校中に立ちくらみを起こすようになり、学校が再開してからも続いた」。札幌の倉孝子(よしこ)さん(48)は、高校1年の長男Aさん(15)が中学2年だった2年前の状況を振り返ります。「元々、人の体調を鋭く察することができる繊細さがあったが、コロナ禍でピリピリした環境が続いたことが影響したと思う」

小学4年の長男B君(9)を育てる札幌の女性(38)も、最初の感染拡大期について語ります。「給食時におしゃべりをするのを禁じられたり、(癖になった)布マスクをかむことをとがめられたりして、ひどく落ち込むことが多かった」

Aさん、B君に共通するのは、感受性が高く、人の言葉や環境の変化などに強く反応して、傷つきやすいこと。2人の母親はいずれも、わが子の状況とHSCの特徴との一致性を強く感じています。

HSCは病気でも障害でもなく、生まれ持った気質を指し、米国の心理学者エレイン・N・アーロンさんが提唱して20年がたちました。4つの特性《1》受け取った情報を深く処理する《2》過剰に刺激を受けやすい《3》感情の反応が強く、共感力が高い《4》ささいな刺激を察知する―のすべてに該当することが要件となります=表=。

HSC(大人の場合は「HSP」)の4つの性質

精神科診療の十勝むつみのクリニック(帯広)院長で、HSCに関する著書「子どもの敏感さに困ったら読む本」(誠文堂新光社)がある長沼睦雄さん(66)は「HSCの本質は『感覚情報処理過敏症』と言える。本人は、自分の中に感覚を刺激する情報が過剰に入って来て混乱している状態なのに、他者は『何か変な人』と見てしまう」と解説します。

当事者への対応について長沼さんは「病気ではなく(病気に至っていない)未病といえ、治療というよりは養生が必要」と指摘します。「例えば不登校になっているなら、学校以外の居場所を増やすなど、生活状況を変えることがよいです」

コロナ下では、感染防止の名の下にマスク着用や手指消毒、他者と距離を置くことが求められたほか、自由な行動に厳しい目が向けられています。このような環境は、HSC当事者をより厳しい状況に追い込んでいます。

当事者家族らを対象とした講座やサロンを開いている「HSP(とても敏感な人)未来ラボ北海道」の佐藤理佳さん(47)は「周りの人が神経質になったあおりを受けたケースは少なくない」と話します。長女結子(ゆいこ)さん(18)がHSC当事者で、つらい経験をしたことがあり、理佳さんはコロナ下のピリピリした環境が与える影響を懸念しています。結子さんは現在、自身の気質を知ることで元気を取り戻し、仕事や勉強に励んでいます。

長沼さんは「コロナ下で外出が制限されたり、人間関係が希薄になったり、経済的に苦しくなったりするなどの変化が、大きなストレスになっていることは確実」と分析しています。そういう状況の子どもたちを支えるためには「より多くの人がHSCのことを知り、その目で子どもたちの生きづらさを見ることがとても大切」と訴えています。

取材・文/弓場敬夫(北海道新聞くらし報道部編集委員)

HSC

英語の「ハイリー・センシティブ・チャイルド」の略称で、「とても敏感な子ども」や「人一倍敏感な子ども」などと訳されます。米国の心理学者エレイン・N・アーロンさんが1996年に提唱したハイリー・センシティブ・パーソン(HSP=とても敏感な人)を子どもに特化した表現で、2002年刊行の著書で初めて記されました。病気や障害ではなく、生まれ持った気質とされています。

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