連載コラム「あそぶ→そだつ」第3回

【あそぶ→そだつ】手を使い“音の実験”

2年ほど前、札幌市内の保育園で見た1歳2カ月の女の子と保育者のやりとりについて紹介します。

「ベビーキューブ」という1辺4センチの積み木があります。子どもの手のひらで包み込むのにちょうど良い大きさで、中には鈴や木の玉などが入っています。女の子が手に持つと、心地よい音が鳴りました。女の子は音を面白がり、何度も振り続けます。

保育者が隣で同じ積み木を振って「いい音だね」と語りかけると、女の子は自分の積み木に目をやり、もう一度うれしそうに鳴らします。保育者から積み木をもう一つもらって振ると、両手に持つ積み木同士がぶつかり、別の音が鳴りました。すると今度は、積み木を打ち合わせる遊びに変わりました。

少しすると、片方を別の色の積み木に持ち替えて振ります。色によって音が違うと気づいたのか、さまざまな音を楽しむ様子は、まるで“音の実験”をしているかのようでした。

食べたり飲んだり着替えたり、生活の中で手を使うことは欠かせません。おもちゃの大きさや形に合わせ、指の使い方や力の入れ具合など試行錯誤を繰り返し、手のひらで握る段階から指でつかむ段階、小さなものを指先でつまむ段階へと進みます。「突き出た大脳」とも言われる手を使うことは、脳の発達にも関係すると考えられています。

女の子は音という刺激に心を動かされ、積み木の色や動かし方によって違う音が鳴る面白さを発見し、手や指を盛んに使って遊びました。積み木で音を鳴らすほか、並べたり、積んだり、女の子の“実験”は続きました。3歳になった今では両手を巧みに使い、自分の背丈くらいまで積み木を積めるそうです。

教えてくれたひと

増山由香里さん

札幌国際大准教授(発達心理学)

1972年生まれ、岩見沢市出身。岩見沢東高から藤女子短大(当時)へ進み、幼稚園教諭、保育士資格を取得。保育現場で勤務後、北大に編入し、北大大学院に進んで修士課程修了。旭川大学短期大学部准教授などを経て2017年から札幌国際大人文学部准教授。保育現場での出合いから、おもちゃや絵本への関心を深めた。編著に「具材―ごっこ遊びを支える道具」(17年、庭プレス)がある。

2024
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