連載コラム「絵本はママを育ててくれる」第8回

【どうぶつさいばん ライオンのしごと】本当に「悪者」なの

“登場動物”それぞれの立場で考えてしまうこの本。息子も真剣な表情です(撮影・松井聡美さん チェンマイ在住、札幌市出身)

ひとり裁判で熱演、大事なのは判決だけじゃない

最近、息子に「弁護士って何?」と尋ねられ「ひとり裁判」をしてみせました。がぜん気合が入る私。記者時代、警視庁を1年半、司法を3年間担当したからです。

息子の赤いミニカーを被告にし、青いミニカーの財布を盗んで逮捕された設定にしました。検察官として「犯行内容に同情の余地はありません」と言い切ったあとは、赤いミニカーになりきって被告人質問に答えました。最近失業したこと、犯行当日は娘の誕生日で、プレゼントを買うお金が欲しかったことを語りました。

犯罪は、戦隊モノのアニメのように「悪者をやっつけておしまい」じゃない。取材で実感したことを伝えたくて考えたシナリオです。

「ライオンのしごと」では、ヌーの子どもが母親を食べたライオンを訴えます。傍聴する動物たちは口々に被告を責めますが、ヌーのお母さんがライオンへ伝えた頼みごとが分かり、年取ったヌーや人間の証言で風向きが変わります。

私も赤いミニカーの事情はくみ取ったものの、有罪を言い渡しました。そこで息子が手を挙げ「裁判長! 僕が会社をつくって赤いミニカーを雇います!」。そうだよね、裁判は終わっても、人生は続くもんね。

今回登場した絵本

「どうぶつさいばん ライオンのしごと」
竹田津実・作、あべ弘士・絵 偕成社

作者は上川管内東川町に住む獣医師で写真家、画家は旭川市の元動物園飼育員。タンザニアの草原でライオンがしたのは殺しか、仕事か、自然の摂理を考えます。馴染みの薄い動物たちについて調べるのも楽しい。

谷岡 碧

2007年にテレビ東京へ入社、記者として秋葉原連続殺傷事件や東日本大震災の被災地を取材。12年に退社、チェンマイへ移住しNGOスタッフとして勤務。その後退職し17年に札幌へ帰郷、幼なじみのピアニストとユニット「enets」(エネッツ)を立ち上げ、絵本の読み聞かせとピアノ演奏によるコンサートを続けている。長男(4)と18年4月生まれの長女を育てる母として奮闘中。札幌市出身。

2024
4/26
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