連載コラム「絵本はママを育ててくれる」第7回

【くまとやまねこ】友と音楽 そっと後押し

札幌市内のレストランで開いたコンサート。私(左端)と石黒さん(奥右)のほか、他の音楽家をゲストに招くこともあります

幼なじみがくれた光 前へ進もう

ピアノ演奏と絵本の読み聞かせをするユニット「enets」(エネッツ)を結成したのは昨年のこと。これまで14回、札幌市内でコンサートを開きました。

タイのNGOを辞めて帰郷し、育児に専念していた私を「何かやろうよ」と誘ってくれたのは、幼なじみで長くヨーロッパで活躍したピアニストの石黒由佳さんです。

当時の楽しみは息子へ絵本を読むこと。「朗読と音楽を合わせてみようか」と、彼女の自宅で挑戦すると、ピアノの響きで言葉や絵が輝き出し、自分の進むべき方向にも光が届いたようでした。

札幌市内の「カフェ ブルー」で=2018年7月、谷岡碧さん提供

札幌市内の「カフェ ブルー」で=2018年7月、谷岡碧さん提供

「くまとやまねこ」は、バイオリンが登場する絵本を探していて出会いました。石黒さんが市内のバイオリニストと共演し、私もゲストとして朗読したのです。

親友を亡くし、失意に沈むくま。そこへ現れた旅の途中のやまねこは、悲しみを忘れさせようとはしませんでした。バイオリンを奏でて楽しい思い出をよみがえらせ、背中をそっと押したのです。

「人の心を揺さぶる伝え手になりたい」という私の夢は、報道やNGOの現場では途切れましたが、今は別の舞台があります。チャンスをくれた石黒さんは、私にとってのやまねこなのかもしれません。

今回登場した絵本

「くまとやまねこ」

「くまとやまねこ」
文・湯本香樹実、絵・酒井駒子
河出書房新社

ある朝、親友のことりが死んでしまう。くまの悲しみは、全編モノクロの絵に込められています。陽の光が差し込むようにほんの少し色が入るのは、やまねこの演奏のあと。再生の喜びは、大人の胸を熱くします。

谷岡 碧

2007年にテレビ東京へ入社、記者として秋葉原連続殺傷事件や東日本大震災の被災地を取材。12年に退社、チェンマイへ移住しNGOスタッフとして勤務。その後退職し17年に札幌へ帰郷、幼なじみのピアニストとユニット「enets」(エネッツ)を立ち上げ、絵本の読み聞かせとピアノ演奏によるコンサートを続けている。長男(4)と18年4月生まれの長女を育てる母として奮闘中。札幌市出身。

2024
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