連載コラム「絵本はママを育ててくれる」第7回
【くまとやまねこ】友と音楽 そっと後押し
幼なじみがくれた光 前へ進もう
ピアノ演奏と絵本の読み聞かせをするユニット「enets」(エネッツ)を結成したのは昨年のこと。これまで14回、札幌市内でコンサートを開きました。
タイのNGOを辞めて帰郷し、育児に専念していた私を「何かやろうよ」と誘ってくれたのは、幼なじみで長くヨーロッパで活躍したピアニストの石黒由佳さんです。
当時の楽しみは息子へ絵本を読むこと。「朗読と音楽を合わせてみようか」と、彼女の自宅で挑戦すると、ピアノの響きで言葉や絵が輝き出し、自分の進むべき方向にも光が届いたようでした。
「くまとやまねこ」は、バイオリンが登場する絵本を探していて出会いました。石黒さんが市内のバイオリニストと共演し、私もゲストとして朗読したのです。
親友を亡くし、失意に沈むくま。そこへ現れた旅の途中のやまねこは、悲しみを忘れさせようとはしませんでした。バイオリンを奏でて楽しい思い出をよみがえらせ、背中をそっと押したのです。
「人の心を揺さぶる伝え手になりたい」という私の夢は、報道やNGOの現場では途切れましたが、今は別の舞台があります。チャンスをくれた石黒さんは、私にとってのやまねこなのかもしれません。
今回登場した絵本
「くまとやまねこ」
文・湯本香樹実、絵・酒井駒子
河出書房新社
ある朝、親友のことりが死んでしまう。くまの悲しみは、全編モノクロの絵に込められています。陽の光が差し込むようにほんの少し色が入るのは、やまねこの演奏のあと。再生の喜びは、大人の胸を熱くします。
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