子どもの付き添い入院 コロナ下で(中)| 経験の知恵 親をサポート 寄付、助成金頼み 限界も

飲食店スタッフから付き添い家族用の夕食を受け取る綿谷千春さん(左)。「体の調子を整えるには食が大事」と食材などにもこだわった料理を届けています(小室泰規撮影)

飲食店スタッフから付き添い家族用の夕食を受け取る綿谷千春さん(左)。「体の調子を整えるには食が大事」と食材などにもこだわった料理を届けています(小室泰規撮影)

「付き添い家族の人たちに焼きたてのおいしいパンを食べてもらいたい」―。

北大病院(札幌市北区)前で7月初め、市内の飲食店スタッフから配達された夕食を受け取った綿谷(わたや)千春さん(48)=札幌市=は笑顔で話しました。

綿谷さんは市民団体「長期入院の子どもと付き添い家族を支える会」(札幌)の代表。同会は北大病院小児病棟で子どもに付き添う母親らに週2回、夕食を無料で提供しています。この日は天然酵母のパンが届けられました。

綿谷さんは昨秋から約8カ月間、9歳の長女の小児がん治療のため、札幌市内の病院に初めて付き添い入院をしました。そこで目の当たりにしたのが、子どもと一緒のベッドか、借りた簡易ベッドで寝起きしながら、24時間の付き添いを続ける親たちの姿でした。売店のカップ麺などインスタント食品で食事を済ませ、シャワーすら浴びられない人もいました。

そんな生活を続け、体調を崩す親たちを入院中、たくさん見てきました。「病院は一生懸命、子どもを治療してくれるけれど、親のサポートまでは手が回りません。でも、子どものためには、親が元気でいることが大事」。そんな思いから、母子入院中だった昨年12月、SNSで助産師ら友人に協力を呼びかけ、付き添い家族の支援を目的とした同会を発足させました。

コロナ禍で立ち入りが制限される中、受け入れを許可してくれた北大病院に5月から夕食の提供を開始。これまでに32回、希望する付き添い者延べ420人が利用しました(7月20日現在)。

ある日のお弁当のメニュー

ある日のお弁当のメニュー

付き添い入院中の十勝管内の女性(40)は「食事が手元に届くだけでもありがたい」と話します。4歳の子どもの心臓手術のため6月から付き添っています。子どもの術後の容体が良くなかった時、お弁当に添えられた「ごはん食べてほっとひと息できますように」とのメッセージを読んで、涙が出ました。「応援してくれている人がいる、1人じゃないと励まされた」

ただ、同会の運営は寄付金と助成金でまかなっているため、週2回が限界。それでも無料にこだわるのは、付き添いには経済的な負担が大きいからです。特に長期の入院を要する家族の場合、職を辞して付き添う人もいます。同会は今後、付き添い者へのマッサージなど支援の拡充も考えています。

東京で2014年に発足したNPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京)は、新型コロナウイルスの感染防止対策で、小児病棟から買い物にも出かけられなくなった全国の付き添い家族に向けて、昨年10月から「生活応援パック」の提供を始めました。レトルト食品や缶詰といった食料や大人用衣類、化粧品などを段ボールいっぱいに詰め、6月末までに道内に90件、全国で計1200件を超える家族に届けました。

都内の病院の小児病棟へ飲食店の弁当を無料で提供する活動もしています。自身も付き添い経験のある理事長の光原ゆきさん(47)は「今の医療体制では病院側が家族のケアまでするのは難しい。でも、NPOやボランティアの力を借りるなど、付き添い環境を改善する方法はまだある」と話しています。

取材・文/根岸寛子(北海道新聞記者)

各支援団体の連絡先

●市民団体「長期入院の子どもと付き添い家族を支える会」(札幌)
https://peraichi.com/landing_pages/view/bwithu/
●NPO法人「キープ・ママ・スマイリング」(東京)
https://momsmile.jp/

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