マスクで保育 発達に影響心配 コロナ禍1年 工夫重ねる現場

マスク姿の保育士が、身ぶりや目の表情で園児を盛り上げる=こども園・ひかりのこさっぽろ(札幌市豊平区)

マスク姿の保育士が、身ぶりや目の表情で園児を盛り上げる=こども園・ひかりのこさっぽろ(札幌市豊平区)

新型コロナウイルスの感染を防ぐため日々、マスクを着用する日常生活になって1年。保護者や保育現場でのマスク着用について発達科学の専門家は「乳幼児の発達に悪影響を及ぼす可能性がある」と警鐘を鳴らしています。乳幼児は顔全体の表情で感情を理解し、口元の動きを見ることで言葉を覚えるためです。専門家は口元や表情が分かる透明なマスクの開発、普及などの対策を取るよう求めています。

表情分かる透明な製品開発を

「今日も寒いけど、元気かな~」。1月中旬、札幌市豊平区の認定こども園「こども園・ひかりのこさっぽろ」。マスク姿の保育士が、十数人の0歳児に声を掛け、ピアノを弾き始めると、子どもたちは旋律に合わせて楽しげに体を揺らして踊り、一緒に歌い始めました。音に合わせて表現する力を育てる「ひかりとみっく」の時間。4人の保育士はマスクであごから鼻まで覆いながらも、目を表情豊かに動かし、身ぶり手ぶりで子どもたちを明るく盛り上げました。

今野路子園長は「五感を育てる活動により力を入れ、保育士の口元が見えないハンディがないよう工夫していますが、コロナ禍が長引くと影響が心配です」と話します。

子どもの脳や心の発達に詳しい京都大大学院の明和=みょうわ=政子教授(発達科学)のもとには「マスク保育」となった保育関係者から「園児の人見知りが出にくくなった」「笑いかけても笑顔を返さない」「言葉が出るのが遅い」などの声が寄せられています。

明和教授は「生後数カ月から就学前の乳幼児は、マスク保育の影響が出る可能性があります」と指摘しています。脳内にある、目からの情報を処理する視覚野や、耳からの情報を処理する聴覚野と呼ばれる場所が特にこの時期、環境の影響を受けて発達するためです。

明和教授によると、乳児は、口も含む顔全体が大きく動く情報を脳内に取り入れ、なじみのある人と、そうでない人の顔を区別したり、相手の感情を理解するようになります。口元が隠れていると、顔全体を学習したり、相手の心を表情から読む機会が減ったりします。子どもが笑顔を返さないといった保育士らの声に関係する可能性があるそうです。

また、言葉は耳からの音の情報だけでなく、音を発する口元を見る情報と脳内で統合し、まねしながら覚えていきます。口元を見る経験が減ると「言葉の発達に遅れが出る可能性も否定できない」と明和教授。

脳の発達は25歳ごろまで続くため、現段階でマスク着用による弊害を断定できませんが、明和教授は「影響が出てからでは遅い。科学的根拠をもとに、産学官が一体となって飛沫拡散防止機能も備えた透明なマスクを開発し、保育現場で活用するなどの施策を早急に行うべきだ」と提言しています。家庭では、保護者に感染リスクがない限り、意識的に表情を介したコミュニケーションをとるように促しています。

海外では、保育現場での透明マスク導入を進めている国もあります。在日フランス大使館によると、フランスでは昨年11月、0~3歳児を保育する全国の保育園などに、透明マスク50万枚が無料で配布されました。政府の要請で同国の全国家族手当金庫が資金を拠出し、宅配会社が無料配送しました。

専用シールド試行 国にも対策要請

マウスシールドを着けた保育士を、不思議そうに見つめる園児(全国私立保育園連盟保育・子育て総合研究機構提供)

保育現場もマスク保育による悪影響に危機感を抱いています。全国私立保育園連盟(東京)の研究機関「保育・子育て総合研究機構」に所属する一部の保育園では保育中の一定時間、マウスシールド着用を試行しています。

試行は、機構の室田一樹代表が発案しました。保育士は通常、不織布マスクを着用していますが、絵本の読み聞かせなど感情を顔で表現する場合に保育用マウスシールドを使用しています。

マウスシールドは、室田代表が抱っこひもメーカーのラッキー工業(岐阜県)に依頼して開発。素材は柔らかい塩化ビニールで、あごの部分は布製のクッション。洗って再利用できます。2月に発売予定で価格は880円。問い合わせはラッキー工業(電)0585・45・7425へ。

室田代表は「2歳未満の子には、顔がマスクで隠れると感情表現が十分伝わらず、コミュニケーション能力の発達に影響があるのではないか」と指摘。1歳児が、なじみの保育士でもマスクを外すと顔が識別できなかったケースがあったそうです。こうした結果から、早急な対策が必要とし、国に対策への支援を求めていく考えです。

取材・文/佐竹直子(北海道新聞記者)

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