幼児にマスク、現場は苦慮 国は「推奨」、正しい着用困難

写真はイメージ(msv/ PIXTA)

新型コロナ感染対策として厚生労働省が、2歳未満を除く保育園児のマスク着用について「可能な範囲」で推奨する方針を打ち出しました。小さな子どもに、息苦しいマスクを、正しく、長時間つけさせるのは容易ではありません。推奨すること自体を疑問視する声がある一方、国の方針を機に対策強化を求める声もあり、保育現場は対応に苦慮しています。

保育士の負担増 保護者からも賛否

札幌市北区の三和新琴似保育園では、子どものマスク着用を一律には求めていません。園長の菊地秀一さん(50)は「マスクは感染を防ぐ効果はあると思うが、保育園は朝から、長くて午後7時まで過ごす生活の場。一日中つけさせるのは難しい」と話します。 息苦しいと外し、床に落としてしまわないか、季節性の胃腸炎で突然吐いてしまう子も多く、窒息が心配―など、マスクを正しく着用させるには、保育士の目配りが必須です。コロナの影響で人手不足の園も多い中、菊地さんは「国は保育の現場を知らない」と感じています。 推奨方針は、オミクロン株対策として8日に打ち出されました。全国の保育施設で感染が広がり、休園が相次いでいるためです。「可能な範囲で、一時的にマスク着用を推奨する」とし、2歳未満は推奨しないことや、子どもや保護者の意図に反して無理強いしないことも注意点として記されました。

乳幼児のマスク着用を巡る見解

小樽市のある認定こども園は、国の方針を知った保護者から「2歳以上はつけさせて」と要望されました。3度の会議を開き、年長(5、6歳)のみ、室内でマスクを着用させることにしました。理事長は「自分で、きちんとつけ外しができる年齢だと判断した。ただ、子どもたちはお互いの表情や口元が見えなくなる。心の発達への影響が不安だ」。

札幌市東区のある認定こども園は、園内で感染者が出て休園した昨秋以降、3歳以上のクラスで不織布マスクの着用を始めました。保護者が必要と判断した子に限定し、床に落ちたら捨てて替えのマスクをつける、外遊びの際はビニール袋に一つずつ入れる―など、新たに約束事も作りました。

園長(54)は「保育士の負担は増えたが、感染を防ぐと思ってやっている」と話します。ただ、「国が言うと、推奨という名の強制になる」と懸念も示しました。

保護者の反応もさまざまです。

「子どもへのマスク推奨なんて、弊害しかない」。元看護師で、長女(4)と長男(1)を育てる空知管内由仁町の自営業羽賀望さん(39)は憤ります。わが子に限らず、息苦しさや違和感、ゴムがかかる耳の痛さなどで嫌がる子は多いのではと思います。「つけさせようとする大人も、嫌がる子どもも疲弊するだけ」

国が言及したことで、小さな子どものマスク着用が当たり前という雰囲気になるかもしれません。羽賀さんは、園や公園など子どもが集まる場所で「いじめやトラブルにつながりかねない」と心配しています。

一方、釧路市の主婦(33)は「仕方がないかな」という意見です。長女(5)の幼稚園ではマスクが必須。最初は嫌がりましたが、2年たち、今では「上着を羽織ったらマスク」という習慣がつきました。「しないで感染するよりは、いい」と話します。

札幌市中央区の会社員女性(30)も「マスクをつける子が増えるなら安心感はある」と話します。幼稚園に通う長男(4)にはコロナが広がり始めたころから、着用を促してきました。今はロケット柄など絵が描かれたタイプだと喜んでつけます。

ただ、園で具合が悪くなった時のこと。先生は長男のマスクを外して初めて、顔色の悪さに気付いたといいます。女性は「このことを知って、体調が悪い時は先生に言おうね、と息子には伝えた。もっと下の年齢の子は、うまく言葉にできないかもしれず、マスクをつけるのは心配」と話しました。

厚労省は15日、子どものマスク着用に関する留意点を各自治体に通知しました。子どもの体調に注意し、昼寝の際は外すことなどを求めました。2歳未満はこれまで通り推奨していません。

体調変化、気づきにくい
札医大・要藤准教授に聞く

就学前の子どものマスク着用は、どのようなことが懸念されるのでしょうか。小児感染症が専門の札幌医大小児科学講座准教授の要藤裕孝(ようとうゆうこう)さん(60)に聞きました。

要藤裕孝さん

要藤裕孝さん

子どもを多くみる立場として、就学前の子に一律にマスクを着用させるのは難しいと思います。中には上手にできる子もいるかもしれませんが、マスクは大人でも息苦しいですから、子どもは本能的に嫌がるでしょう。 嘔吐(おうと)の際の窒息の可能性もあります。吐いた時、マスクを外せずに食べ物が口の中に残り、気管に入って詰まると危険です。また、表情が見えず、顔色が真っ青になっているのに、気がつけないのも心配です。

政府の方針転換の背景には、オミクロン株の広がりに伴い、子どもからうつる事例が増えてきたことがあります。以前と状況が違うことはわかります。

だからと言って、マスクをすれば防げる、というわけではありません。なめ、触り、床に落ちたものを再び身につけることで、マスクを媒介してうつる可能性もある。親や小児科医、保育士にはすぐ想像がつくことです。まずは大人が不要不急の外出をできるだけ避け、感染対策を徹底することが大切です。

マスクをつけさせる際はいつも以上に顔色に注意し、子どもの様子をよく観察してください。

取材・文/有田麻子、尾張めぐみ(北海道新聞記者)

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