子育て世代の「おうち時間」 絵本読み聞かせで心通わせ

お気に入りの絵本を手に、オンラインで取材に応える高木真美さん(左)と亨さん

新型コロナウイルス感染拡大で外出がままならない中、釧路市在住の絵本専門士、高木真美さん(57)は「子どもたちが不安と寂しさを抱える今こそ、絵本の読み聞かせが心を育む」とコロナ下の子育て世代に助言します。自らの子育てで共に読み聞かせをしてきた夫の亨さん(63)も「家族のコミュニケーションを深める機会に」と話しています。

ふれあいながら会話楽しんで

絵本専門士は国立青少年教育振興機構(東京)が認定する絵本と読み聞かせの専門家で、道内には高木さんを含め12人。本業は、釧路短期大生活科学科の専任講師で、図書館司書の育成に携わっています。元釧路市職員で図書館業務をして以来20年余り、地域で読み聞かせ活動を続けています。

この活動の仲間でもある亨さんは元市教委学校教育部長で、定年退職後、釧路高専に入学し、現在3年生。高専でも絵本の読み聞かせを披露する予定です。高木さん夫妻は2人の息子が生まれてから十数年間、読み聞かせを続け「絵本は子どもと心を通わせる道具でした」と声をそろえています。

では、高木家流の読み聞かせとは―。

絵本を読み聞かせる時は「体をくっつける」こと。子どもの肩を寄せたり抱いたりして、「信頼できる人の体温や声の響きを体で感じると安心し、互いに癒やされます」。ただ5~6歳になると、照れて抱かれるのを嫌がることがあります。そんな場合は、抱き合ったり、握手をしたりなど触れあいの場面がある絵本を選ぶと、まねして自然とふれあえます。

大げさな演技で 家族で続き作る

会話を楽しむことも大切です。感想や意見がないか問いかけながら読むと、コミュニケーションが深まります。雑談が長引いたら読むのをやめて会話を楽しみましょう。亨さんは子どもが小さいころ、共通の話題がなく、会話に困ることがあると「子どもと話すきっかけを作るために読み聞かせをした」と苦笑します。

さらに「パフォーマンスは大げさに」も大切です。役になりきった演技で読むと、読み手のストレス発散にもまります。亨さんの定番絵本は幕下力士が化粧まわしをマントに空を飛ぶ「スモウマン」。空手で鍛えた胸筋をピクピク動かして力士を演じ、家族を爆笑させてきました。

高木真美さん、享さんが子育て世代に勧める絵本

そして一番大切にしたのは「絵本の続きは家族で作る」こと。読み終わったら子どもたちと続きを考え、アドリブで語り披露しました。布団の中で始めた語りが、明け方まで続いたこともあったそうです。

「読み聞かせで癒やされたのは親の方かもしれない。家族の物語を作った日々は宝物です」と高木さんが目を細めました。

東北大グループなど共同研究
親子のストレス軽減に効果

写真はイメージ

写真はイメージ(Ushico / PIXTA)

家庭での読み聞かせは、親のストレス軽減にもつながることが、東北大加齢医学研究所のグループと山形県長井市の共同研究で明らかになっています。

共同研究は2017年に行われ、幼児のいる約30世帯が8週間、家庭で読み聞かせを行い、母親のストレスの変化を心理検査で計測しました。

読み聞かせ期間後には、母親の「総合的ストレス」は以前より5%下がり、「子どもが原因のストレス」も9%低下。「子どもの機嫌の悪さ」「子どもが気が散りやすい。多動」など、子どもの行動に対する母親のストレスも以前より下がり、読み聞かせ後は、子どもの気持ちや行動が落ち着いたと推測されました。

調査世帯の読み聞かせの頻度は「週1~4回」が60%、1回あたりの時間は20分以内が75%を占めました。

調査を担当した東北大助教、松崎泰(ゆたか)さん(33)=認知神経科学=は「ストレスの強い家庭は親子のコミュニケーションが阻害され、子どもの言葉の発達に悪影響が出る恐れがある。読み聞かせを通じたコミュニケーションは、親子のストレスを下げる活動となり、子どもの発達にも良い」と話します。

母親の読み聞かせ経験から絵本出版
イラストレーター やまだなおとさん

絵本「やかんひこう」

絵本「やかんひこう」(文・絵 やまだなおと)

子どものころ、母親に絵本を読んでもらったことがきっかけで大人になって絵本を出版した人がいます。札幌市のイラストレーターやまだなおとさん(29)です。

やまださんが5月に出版した絵本「やかんひこう」(北海道新聞社)は、夢の中でやかんに乗り、夜空を旅する男の子の冒険が描かれている。恐竜やお化けも登場し、やかんは宇宙にも向かうストーリー。

毎日の幸せ 家族で味わって

やまださんは幼いころ、夜が怖かったそうです。でも、枕元で母みどりさん(61)に絵本を読んでもらうと、夢を見ながらぐっすり眠れました。その体験から絵本作家を目指そうと思い、小樽商科大を卒業後、北海道芸術デザイン専門学校に進学しました。

やまださんは「子どもたちは感染予防で思うように外出できないけれど、絵本があれば空想の世界が広がり、夢の中でどこにでも行ける。読んでくれる家族みんなが旅の仲間。夜になり朝を迎える当たり前の毎日の幸せを、絵本を通し家族で味わってほしい」と話します。

取材・文/佐竹直子(北海道新聞記者)

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