通園バス置き去り防げ 道内も管理徹底 装置義務化なら費用課題

旭川市のモリタエレテックが開発した置き去り防止装置。園児が押しやすいようにバスの床に取り付けたボタンを押すと警報音が鳴り響く(諸橋弘平撮影)

静岡県牧之原市の認定こども園の通園バスに女児(3)が置き去りにされ、熱中症で死亡した事件から1カ月が過ぎ、道内の幼稚園や認定こども園、保育所で通園時の安全管理を改めて徹底する動きが広がっている。一方、車内確認などを怠る人的ミスによる死亡事件は昨年も福岡県で発生しており、国は置き去りを防ぐ安全装置の義務化に向けた緊急対策を今月中にまとめる。ただ対策が導入されれば、新たな費用負担が生じるため、施設の職員は「行政の支援が必要だ」と訴える。

マニュアル再周知

4日朝、札幌市南区の札幌みすまい幼稚園に到着したバスから園児約20人が降車した。同乗の職員は車内に落とし物や園児が残っていないか、最後尾から座席を見回り、運転手に伝えた。「全員降りましたね」

静岡県のこども園の事件は9月5日に発生。園児をバスから降ろした後の車内確認を怠った上、置き去りにされた女児の所在を確認しないなど複数のミスが重なった。

職員に見守られながら通園バスを降りる札幌みすまい幼稚園の園児たち(植村佳弘撮影)

職員に見守られながら通園バスを降りる札幌みすまい幼稚園の園児たち(植村佳弘撮影)

事件後、道内の幼稚園などは職員向けのマニュアルの再周知を徹底。約90人をバス3台で送迎するみすまい幼稚園も乗降時の人数確認などの基本的な手順を再確認した。運転手を含め職員は14人と限られるが、川端豊園長(59)は「複数の職員が風邪などで休んでバスの同乗者の人繰りが厳しくなっても、安全のためには欠かせない」と話す。

通園バスに園児が置き去りになるケースは全国で相次いでおり、昨年7月にも福岡県の保育所で当時5歳の男児がバス内で熱中症により死亡。道内では2018年10月、オホーツク管内西興部村の村営保育所のバスに当時2歳の女児が放置されたが、約2時間後に無事見つかった。いずれも職員の思い込みや確認不足が原因だった。

再発防止のため、園児の乗り降りを記録するチェック用紙を作った西興部村は「役場内に『運転手が車内を必ず確認しているだろう』という雰囲気があった。なあなあで運営していた」(住民課)といい、確認が甘かったと認める。

安全装置開発進む

人的ミスが繰り返される中、園児の置き去りを防ぐ安全装置の開発が進む。加藤電機(愛知県半田市)は、エンジンを切ると警報音が鳴るブザーと、置き去りにされた園児を検知するセンサー(計約8万円から)を7日から販売。ブザーは車内後部のボタンを押すと止まる仕組みで、運転手が移動の間に座席をチェックするよう促す。すでに、全国の幼稚園などから数百台の注文を受けたという。

自動車用電装品を取り扱うモリタエレテック(旭川市)も類似のブザーと置き去りにされた園児が車内のボタンを押すと車外に警報音が鳴り響く装置(計約15万円)の販売を始め、地元幼稚園に無償提供した。

人工知能(AI)搭載のカメラが車内の園児を検知すると警報音が鳴る高性能の装置を販売する会社もあるが、費用は40万円を超える。国は購入補助制度を検討しているものの、バスを複数所有する施設の負担は大きい。バス3台で送迎する旭川あゆみ幼稚園(旭川市)の北川有希子園長(50)は「すぐに購入するのは難しい。義務化するなら全額補助してほしい」と求める。

北海道私立幼稚園協会(札幌市)の近藤宏会長(63)は「園児をバスから降ろした後の車内確認は基本中の基本の動作で、怠ることは本来考えられない。ヒューマンエラーを補うシステムはあっていいが、機械に頼り過ぎるのは禁物。人によるチェックがおろそかになってはいけない」と指摘する。(三島今日子、鳥潟かれん、鈴木雅人)

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