政府・少子化対策たたき台 道民から「ワンオペ育児」支援求める声 3児の母「私が倒れたら…」

政府が3月31日に発表した少子化対策のたたき台は、子育て世帯の家計負担の軽減を重視した内容となった。道内の子育て中の家庭からは歓迎の声が上がる一方、女性に育児と家事の負担が集中する「ワンオペ育児」への支援充実を求める切実な声も聞こえる。岸田文雄首相が「異次元」とうたう対策は少子化傾向を本当に反転させることができるのか。0~5歳の3姉妹の育児に追われる女性の暮らしから見える現実とは―。


第3子出産から4カ月。後志管内岩内町で3姉妹を育てる主婦岩井英恵(はなえ)さん(32)はため息交じりに言った。「子ども3人を大学に行かせたいので月5万円は貯金したい。でも実際は貯金ができず、取り崩す月が多い」

岩井さん1

負担軽減は歓迎

物価高は4月1日からさらに深刻化する。乳製品や加工食品など生活必需品が一斉値上げされ、育ち盛りの長女(5)と次女(2)の食費はかさむ一方だ。それだけに児童手当の対象年齢引き上げや多子世帯への加算などを掲げた政府の少子化対策は「すごく助かる。言ったからには実行してほしい」と切に願う。

中学校教諭の夫秀一さん(35)の転勤で4年前から暮らす岩内町に、親類はいない。秀一さんは育児に積極的だが、バスケットボール部の顧問を務め、休日出勤も多い。江別市で暮らす英恵さんの両親も祖父母の介護で忙しく、支援を頼みにくい。「自分が風邪で倒れたらどうなるのか」。不安が消えたことはない。

岩井さん2

3月中旬、妹の結婚式に出席するため江別市に帰省した。子供たちを両親に預け、友人らと5年ぶりに入った居酒屋。「焼き鳥を頬張ったら思わず涙がこぼれた」。昼夜を問わない育児に追われ、ずっと張り詰めていた気持ちが、ふっと緩んだ瞬間だった。同じ境遇の母親が多いのか、最近、孤独な育児の苦しみを表す「孤育て」という言葉が、インターネット上で盛んに飛び交う。

政府は少子化対策でワンオペ育児の解消に向けた柔軟な働き方を導入するため、妻の産休中に取得できる育児休業制度「産後パパ育休」で休みを取る男性への給付金を引き上げる方針なども掲げた。ただ英恵さんは思う。「夫も制度を使えるはずだが、学校の先生も人手が多いわけではない。簡単には休めない」

厚生労働省の調査によると、男性が家事・育児に参画するほど第2子以降が生まれる割合は高い。男女ともに仕事と子育てを両立しやすくする実効性ある労働政策や育児支援策が不可欠なのは明らかだ。

岩井さん3

看護休暇の拡充を

実際、育児中の女性や出産を希望する人を対象に、北海道新聞報道センターと、北海道新聞の子育てウェブサイト「mamatalk(ママトーク)」が共同で3月末に行ったアンケートでは、回答者206人の54%が金銭的支援よりも夫の育児休暇制度や子どもの看護休暇の拡充などを求めた。

4月から育児休暇を取る後志管内在住の3児の父親(34)はアンケートに「経済的支援は必須だが、それだけで良いとは思わない」と回答。苫小牧市の2児の母親(32)も「体調の悪い時に子どもの面倒をみてほしい」と訴えた。財源が不透明な現金給付中心の支援策に「一時的な選挙対策にすぎない」(札幌市の32歳女性)との声もあった。

岩井さん4

英恵さんは3姉妹の夜泣きで毎日2~3時間おきに目を覚ます。疲労が抜ける日はないが、笑顔で遊ぶ3姉妹の姿を見ているだけで心がほぐれ、幸せな気持ちになる。「子どもは3人ほしいとずっと思っていた」。その願いがかなったことは今も幸運だったと思う。

将来不安や負担感から出産をためらいがちな若い世代をいかに少なくできるか。「かけ声倒れ」に終わらない、実効性ある少子化対策を英恵さんは心から願っている。

取材・文/五十地隆造、上家敬史(北海道新聞記者)

【関連記事|北海道新聞デジタル】
政府、少子化対策のたたき台公表 所得制限撤廃・出産に保険適用

2024
5/20
MON

Area

北海道外

その他