保育園、マスク対応に苦慮 大人の表情、発達に重要 コロナ対策との両立試行錯誤

口元が見える透明のマスクを着けて子どもと話す保育士=白石中央保育園(石川崇子撮影)

政府が新型コロナウイルス対策のマスク着用指針を緩め、屋外を中心に外すよう呼び掛ける中、道内の保育現場が対応に苦慮している。乳幼児は大人の口元の動きや表情から言葉や心を理解する大切な時期のため、保育士はマスクを着けないのが望ましいが、4歳以下はワクチンを接種できず、屋内では慎重な感染対策が求められるためだ。道内でも感染第7波が勢いを増しており、保育士らは子どもの発達と感染防止をいかに両立させるか、試行錯誤している。

「給食おいしいね」。札幌市の白石中央保育園で6月中旬、口元が見える透明のマスクを着けた保育士がにこやかに話しかけると、園児が笑顔を返した。1歳児を担当する保育士の小川愛香さん(35)は「ご飯を食べるとき、言葉だけでなく、口の動きと表情でも考えを伝えられる。子どももよく口元を見るようになった」と話す。

厚生労働省は5月、屋外で距離を確保できる場合や、屋内でも距離が2メートル以上あり、ほとんど会話しない場合にはマスク着用は不要とする指針を出した。

透明型は高価

同園はこの指針を受け、園児の発達を踏まえたマスクの着脱について内部で話し合いを重ねた。その結果、屋内での「脱マスク」までは踏み切らなかったが、6月中旬から保育士ら職員全36人が不織布マスクではなく、透明のマスクを着けるようになった。

1個600円と単価は高く、蒸れるなどのデメリットもあるが、秦光円(みつまる)園長(72)は「口元や表情が見えることが重要」と話す。

札幌市北区のある保育園の保育士も6月から、屋外で園児と遊ぶときのほか、屋内でも絵本の読み聞かせの際に2メートルほど距離をとった上でマスクを外すようになった。第7波で感染者が急増しているが、園長は「発達への影響を重視し、園内で陽性者が出ない限り対応は変えない」と話す。

乳幼児の発達に詳しい京都大大学院の明和(みょうわ)政子教授(発達科学)によると、乳幼児には周囲の影響を強く受けて脳が変化する「感受性期」があり、この時期に相手の声や表情をまねすることで言葉を身につけ、相手の気持ちを理解するという。明和教授は「家庭以外で豊かな表情を見る機会が乏しくなった。保育園でも、できる限り表情豊かにコミュニケーションできる環境が必要」と指摘する。

「臨機応変に」

ただ、ワクチンを接種できない園児がいる現状では感染対策も気を抜けず、屋内外とも不織布マスク着用から抜け出せない保育園は少なくない。函館市のあすなろ保育園もその一つで、亀井隆園長(68)は「園児が感染すれば多くの家庭に影響が出る」とためらう。札幌市私立保育園連盟の菊地秀一会長(51)は「社会全体にはマスクを外す動きが浸透していない」と現状を指摘する。

北海道科学大の秋原志穂教授(感染症看護学)は「大人ができる感染対策をすることが重要だが、2メートル以上離れる場面では屋内外とも、保育士がマスクを外しても感染させるリスクは低い。保護者の理解を得ながら、状況に応じた対応を検討してほしい」と呼び掛けている。

2024
4/26
FRI

Area

北海道外

その他